【内田雅也の追球】“勢い”と“本物”の三塁打 強い阪神が、普通にやって普通に勝ってしまった夜

[ 2023年5月31日 08:00 ]

交流戦   阪神3―1西武 ( 2023年5月30日    ベルーナD )

<西・神>初回、三塁打を放つ近本(撮影・白鳥 佳樹)
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 38年になる野球記者生活で初回先頭から連続三塁打を見たのは初めてだった。読んだり聞いたりしたこともない。ただでさえ珍しい三塁打がいきなり2本続いたのだ。

 記録担当が丁寧に調べ、阪神では2リーグ制(1950年以降)では初めてだという。

 1回表先頭の近本光司が初球、ひざ元直球を右中間フェンス直撃の三塁打。続く中野拓夢が3球目の内角高め直球を右翼線に運んで適時三塁打とした。俊足の1、2番がみせた速攻だった。

 間(ま)の多い野球というスポーツにあって、最も長くボールが動いているプレーは三塁打だろう。投手が投げ、打者が打ち、走り、三塁に達するまで十数秒かかる。スリリングな瞬間である。

 <三塁打に興奮するには、何としてでも球場に足を運ばなければならない>と1980年代に活躍した野球批評家、草野進が『どうしたって、プロ野球は面白い』(中央公論社)で書いていた。<その瞬間的な美しさが唐突に演じられてしまうことのためにプロ野球は存在している>。

 確かに三塁打は球場の空気を変え、チームに活気を呼ぶ。だから草野は<チームの“勢い”とは、何人の三塁打打者を持つかによって決定される>と断じた。

 試合は3―1の快勝だった。これで今季、阪神は三塁打が出た試合で8勝1敗(8連勝)となった。三塁打13本はリーグ最多。放った打者は近本7(リーグ最多)、中野2をはじめ、井上広大、坂本誠志郎、木浪聖也、シェルドン・ノイジーと6人にのぼる。“勢い”があらわれている。

 もちろん、阪神監督・岡田彰布は“勢い”を嫌うのを知っている。著書『動くが負け』(幻冬舎新書)に<「勢いで勝つ」ことが好きではない>とある。<例えば、連勝が10まで伸びると、そこには明らかに「勢い」という不確定要素が介在している。チーム力が安定している時は、勢いは必要ない>。

 目下、チームは9連勝だが、岡田は「当たり前のことを当たり前にやっているだけ」と力みはなく、勢いに任せているわけではない。

 この夜も普通にやって普通に勝ってしまった。そんな感じなのだ。この強さは単なる勢いではなく本物だろう。岡田がバスに乗り込む前、そんな感想を伝えると「そうやなあ」と笑っていた。=敬称略=(編集委員)

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2023年5月31日のニュース