【全日本野球協会・山中新会長に聞く】スポーツの魅力と意味

[ 2018年8月31日 10:30 ]

山中正竹氏
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 【伊藤幸男 一期一会】スポーツに興じる子どもが少なくなっている。特に野球人口の減少は顕著だ。プロ・アマ球界も危機感を共有し、様々な打開策を講じているが、いまだ効果は見えていない。今年5月、全日本野球協会(BFJ)会長に就任した山中正竹氏(71)は、指導者の力こそ大きな影響力があると考えている。同氏に(1)指導者論(2)スポーツの意味(3)大学野球部監督に求められる役割―をテーマに聞いてみた。

 ―山中さんにとってスポーツマンシップとは?

 「一般的にはルールを守って正々堂々と戦い抜く。その前提にはマナーがある。スポーツはルール以前に“他を認めること”つまりリスペクトの心が必要です。人間は周囲から認められたい傾向にありますが、自分も相手や審判、ルールを尊重しなければならない。マナーはルールに優先する。技術向上だけでなく自己を客観視し、人間力を高めていく。人格の形成です」

 ―人間力とは?

 「他を認めるということは民主主義の根幹。認めなければ、暴力につながる。スポーツは暴力の排除からスタートしているんです。ただスポーツ指導者が陥りやすいのが前述の勝利主義。勝ちさえすればいい、キレイ事は邪魔な存在でしかない発想です」

 ―昨今も一部競技の過激な指導が問題視されてます。

 「スポーツをするにはルールを守る覚悟がいる。たとえば手でボールを扱えないサッカー、前方へのパス(スローFW)を禁じるラグビー…。厳しく難解な決めごとがあっても、ルールの下での戦術で乗り越えていく。それがスポーツの価値であり、周囲からの尊敬や信頼を得られる所以なのです」

 ―スポーツ発祥の精神と、日本の現実とは乖離がありのでは?

 「それは明治維新以降の時代背景にもあると思います。本来スポーツは“知育・徳育・体育”でしたが、その時代はスポーツ=体育にした。日本だけに浸透した勝利至上主義の弊害は、戦後も抜けていない。命令を聞かない者には体罰。だからスポーツは理不尽なハラスメントが潜んでいると思われてしまう。日本スポーツ協会の起源、大日本体育協会副会長を務め、スポーツマンシップを日本で最初に唱えた武田千代三郎氏の“人の体力、気質、品性は机の前に求めることは出来ず”の教えからかけ離れてしまった」

 ―その一方でスポーツの魅力も強調されてます。

 「世間ではスポーツの力を再評価しています。スポーツが持つ価値の多様性が大学や社会でも認められている。米国などでは優秀なリーダーがさらにスポーツを学び、教育・・社会・産業などの分野に大きな影響を与えている」

 最終回(9月7日)は大学野球部の指導者に求められる役割です。

 ◆山中 正竹(やまなか・まさたけ)1947年(昭22)4月24日、大分県出身の71歳。佐伯鶴城から法大に進み、東京六大学史上最多の48勝。住友金属監督として82年都市対抗優勝。92年バルセロナ五輪では監督として銅メダルを獲得した。94年から法大監督として7度東京六大学リーグ優勝。03年からプロ野球横浜の専務取締役。16年野球殿堂入り。今年5月、全日本野球協会(BFJ)新会長に就任。

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