グレコ40年ぶり金の文田健一郎 次の目標は「父親としても金メダルを」にゃんこ&子煩悩レスラーに変身

[ 2024年8月8日 02:00 ]

パリ五輪12日目 レスリング ( 2024年8月6日    シャンドマルス・アリーナ )

<パリ五輪 レスリング男子グレコローマンスタイル60キロ級決勝>金メダルを手にする文田(撮影・小海途 良幹)
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 40年ぶりの快挙だ!男子グレコローマンスタイル60キロ級決勝が6日に行われ、21年東京五輪銀メダルの文田健一郎(28=ミキハウス)が曹利国(ソウ・リコク、中国)を4―1で破り、悲願の金メダルを獲得した。グレコで日本勢の優勝は、84年ロサンゼルス大会で52キロ級を制した宮原厚次以来40年ぶり5人目。フリースタイルや04年アテネ大会で始まった女子に押されてきた日本グレコのエースが、重い歴史の扉をこじ開けた。

 日の丸を羽織った文田が、マットの中央で仁王立ちし、右の人さし指を真上に突き上げた。「勝ったらやりたいなと思っていた。パリなのでエッフェル塔を見ながら、あんなふうに輝いて勝ちたいなと思ったので」。東京五輪で金メダルを逃し、人目をはばからずに号泣してから1100日。自身と日本グレコ勢の悲願をかなえ、前夜に着想を得たポーズを得意げな顔で決めた。

 「投げてナンボ」のスタイルを真っ向否定された東京五輪の決勝。復帰後は勝ちに徹するレスリングを追求するあまり、試合も練習も「面白くない。もうやめよう」と思うことすらあった。昨年の世界選手権準決勝に勝ってパリ行きを決め、決勝では投げを解禁。1周回った3年間で、投げと勝利を両立するハイブリッドなレスリングへと昇華させた。

 5日の準決勝では22、23年世界王者の宿敵シャルシェンベコフに豪快な変形の反り投げを見舞ったが、決勝は3年前と同じ轍(てつ)を踏むまいと、ひたすら勝負に徹した。第1ピリオドにローリングなどで3点を奪うと、第2ピリオドは守りを固めた。「どんなことがあっても、6分後に自分の腕が上がっているように」と、投げたい欲求を封じ込め、歓喜の瞬間を迎えた。

 二人三脚で歩んできた笹本睦コーチは「アイツ自体は成長してないけど、家族ができたのは本当に一番でかい」と話す。22年6月に9歳年上の有美さん(37)と結婚。レスリングと車以外は無頓着な文田が「毎日NTC(味の素ナショナルトレーニングセンター)にいるみたい」な食事で支えられた。昨年1月には長女・遥月(はづき)ちゃんが誕生。夜更かしと昼まで寝るのが当たり前の生活リズムも一変。3年前もあった金メダリストのポテンシャルが、ようやく開花する状況が整った。

 00年シドニー五輪銀の永田克彦や16年リオ五輪銀の太田忍ら、多くの名選手が阻まれ続けた五輪王者に就いた文田は言った。「女子が強くて、おかげでレスリング全体の注目が上がった。グレコが少しでも目を向けてもらえるきっかけになれば」。人生をささげるこの競技の魅力を、もっと多くの人に知ってもらいたい。「世界一強い父親になったけど、世界一の父親にはなれてない。父親としても金メダルをもらえるように頑張ります」。次の目標は明確だ。 (阿部 令)

【文田健一郎はこんな人】
 ☆生まれ 1995年(平7)12月18日生まれ、山梨県出身の28歳。山梨・韮崎工、日体大を経て、18年4月からミキハウス所属。日体大では男子フリースタイル57キロ級の樋口黎と同期。
 ☆競技歴 中学で本格的に競技を始め、高校時代は父・敏郎さんが監督を務める韮崎工で史上初のグレコ高校8冠を達成。16年全日本選手権を初制覇し、17、19年世界選手権を制覇。
 ☆にゃんこレスラー 元々の猫好きに加え、人並み外れた柔軟性を武器に、反り投げなど豪快な技が得意だったことから、愛称として定着。猫を飼っており、名前は「しょうが」と「わさび」。
 ☆子煩悩 以前はキャンプも1人で出かけるなどマイペースだったが、遥月ちゃんが誕生した後は子供中心のライフスタイルにシフト。おむつの交換や寝かしつけ、お散歩などもこなし、有美さんに1人の時間をつくる。レスリングとの両立も「いい切り替えになっている」。
 ☆愛車 車好きで6月には「購入から2年待った」という光岡自動車のSUVバディが納車された=写真<上>、本人インスタグラムから=。50万円を超える鮮やかなイエローのオプションカラーなどを含め、本体価格だけで600万円超え。

【文田に聞く】
 ――今の気分は。
 「最高です。思い返せないぐらいたくさんの苦悩とか葛藤があった」

 ――涙はなかった。
 「東京五輪の後に、皆さんに“次は笑ってマットを降ります”と宣言していたので、泣かずに、ちゃんと笑ってマットを降りた」

 ――男子グレコで日本勢で40年ぶりの制覇。
 「僕が金メダルを獲ったことで、小さい子が憧れてくれればいい。日本の強さを女子がずっと証明してくれているので、僕は少しでもグレコローマンに目を向けるきっかけになればいい」

 ――家族が客席から応援していた。
 「東京五輪の静かな観客席とは違い、本当に温かくて熱気があった。いろんな感情、思いを空気の中に感じた」

 ――世界一のパパに。
 「娘の前では負けたくないという思いが凄く強くて、モチベーションの一つでもあった。勝った後、僕を見つけてくれて手を振ってくれた。勝てて良かった」

 ▽グレコローマンスタイル 上半身への攻防に限られる男子のみの種目。腰から下への攻防も認められるフリースタイルはタックル中心となるが、グレコは投げ技が多い。レスリングの起源とされ、五輪は1896年の第1回アテネ大会から実施し、世界選手権は1904年のウィーン大会から始まった。現在は55キロ級から130キロ級の10階級に分かれ、五輪では6階級が行われる。

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