もったいないペナルティーも実力の範疇 百戦錬磨のプロップ稲垣が語る豪州戦の収穫と課題

[ 2021年10月30日 08:00 ]

<日本・オーストラリア>後半、スクラムで攻め込まれる日本の選手たち(撮影・岡田 丈靖)
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 23―32。残り3分までは1トライで逆転できる4点差。世界ランキング3位のオーストラリア、ましてや4年前には30―63のダブルスコアで敗れた相手に金星寸前までいった一戦をどう評価するかは、簡単なようで難しい。稲垣啓太は宮崎合宿に入ってすぐのオンライン取材で、「結果が出なかったら、罵(ののし)ってもらった方が楽。勝てなくても、いい試合だったね、ではダメ」と言った。もちろん結果も内容も罵られるようなものではなかったが、日本代表が次のステップに進むためには、手放しで称えて良しとはならない。

 ジェイミー・ジョセフ・ヘッドコーチ(HC)をはじめ、計6人が応じた試合後のオンライン会見。全体の雰囲気を平均化すれば、満足感、安ど感が漂っていたように思う。その中でジョセフHCがはっきり敗因として挙げたのが反則の多さ。その数、ペナルティー13、フリーキック1の計14。チームでは独自のカウント方法があるのか、「17回のペナルティーがあると、南アフリカを破った相手には勝てない」と指摘していたが、いずれにしても挑戦者側の日本が出して良い数ではなかった。

 改めて13回のペナルティーの内訳を見ると、スクラムでの4回は現時点での完成度や力量の差と言えるし、改善の余地でもある。19年W杯時はハイブリッドになっていた昭和電工ドームの芝だが、その後に再び天然芝に張り替えられている。足場が緩い天然芝は総重量が軽い日本にとっては不利だったと藤井雄一郎ナショナルチームディレクターも指摘したが、それは戦前から分かっていた条件。テストマッチである以上、不利な条件も織り込んだ上で優位に立ってほしかったと考えるのはぜいたくだろうか。一方で後半に自陣での相手ボールスクラムでペナルティーを一つ取り返したことは、7月のアイルランド戦からの進化を感じられる場面だった。

 残りの9回はアタック側で6回、ディフェンス側で3回。ペナルティーの原因はそれぞれで、プレッシャーを受けて致し方ないと思われる場面がある反面、もったいないと思わせるものも多い。例えば後半最初のペナルティーは、キッカーよりも前に立っていたチェイサーがボールに絡みに行ってオフサイド。この直後、ラインアウトからブラインドサイドを突破されて失トライにつながった。後半24分ごろには、敵陣中盤で勢いを持ってアタックしていた場面で、味方のダブルアクションに気づかずスイープに行きペナルティーに。攻撃を継続できればトライやペナルティー獲得につながり得た場面だっただけに、やはりもったいないと言わざるを得ないのだが、なぜ安易に反則を犯してしまうのか。

 稲垣はこうも言っていた。「いかに技術を身に付けようが、練習しようが、一番苦しい時間に身に付けてきた技術、判断力が出せなければ、正直練習する意味がない。そこを意識的に引き出せるように訓練している。特に実感するのが後半10分、20分の苦しい時間帯を迎える時にそれを感じる」。安易なペナルティーだからこそ、意識の持ちようですぐに改善が図れると思われがちだが、実は疲労から来る判断力の低下が原因――。百戦錬磨のプロップの放つ言葉は、やはり含蓄がある。稲垣の言葉に当てはめれば、もったいないと思わせるペナルティーを犯したのも、実力の範疇(はんちゅう)だと言える。

 春の欧州ツアーで約2年ぶりのテストマッチを2試合だけ戦い、オーストラリア戦もそれ以来のぶっつけ本番だった。トップ10で日本ほど実戦不足の国は他にない。それらを勘案すれば、やはり23―32の結果は及第点。一方で現状のままでは、19年W杯を上回る結果は得られないと考えるのも妥当だろう。休み明け、一戦叩いてグンと状態は上がっているか。23年W杯に向け、試金石となる敵地での3連戦をしかと見極めたい。(記者コラム・阿部 令)

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