絶対的エースで主将が見た景色 石川祐希が目に焼き付けたこと

[ 2021年9月26日 09:15 ]

バレーボール男子日本代表の石川祐希(ロイター)

 絶対的エースで主将――。背負うものが増えれば、見える景色も変わる。バレーボール男子日本代表の石川祐希(25=ミラノ)の役割に、攻撃の要のほかに今季から「主将」という重役が加わった。それは「世界トップの選手」を目指す石川にとって、大きな財産となった。

 19日にアジア選手権を終え、今季の日本代表活動が幕を閉じた。東京五輪では29年ぶりに8強入りを果たし、アジア選手権は準V。五輪直前のネーションズリーグ(イタリア)ではチーム状態が向上せず不安視されたこともあったが、五輪8強と来年の世界選手権(ロシア)出場権獲得で最低限の目標は達成できた日本男子。

 石川は絶対的エースとしては格の違いを見せつけた。東京五輪での112得点はチームトップで、全体でも8位。アジア選手権では五輪後に背中を痛めた影響で最初の2試合を欠場したが、最終的には5試合出場でチームトップの83得点と、やはり頼りになる存在だった。五輪では「決して悪いプレーではなかったし、自分たちの持っているものは出せた」と手応えもあった。

 だが、主将としての満足感には、ほど遠かった。五輪は準々決勝ではブラジルに、アジア選手権決勝ではイランにそれぞれストレート負け。「悔しい。まだまだ実力不足だった」と痛感した。何より、勝利に導けず「反省」という二文字を口にした。

 今年に入ってすぐ、石川へ一本の電話が掛かってきた。中垣内祐一監督(53)からの主将打診だった。「受けてくれるか?」。石川は迷うことなく「やらせていただきます」と返事した。

 決意したのは「世界一のプレーヤーになるために必要だと思っていた」からだった。中大1年時からイタリアで挑戦を重ね、世界最高峰リーグの一つと称されるセリエAで活躍する主将たちに影響を受けた。

 しかし、いざ主将になってみると壁にぶつかった。ネーションズリーグでは、チームとして思うような結果が出ずに7勝8敗の11位。宿舎では同部屋だった同学年の小野寺太志(25=JT)に「大変だなあ」と打ち明けたこともあった。それでも、背中で、プレーで引っ張った。要所で得点すると、何度も吠えてチームを鼓舞。小野寺が「彼はあまり話すのが得意じゃない。自分のプレーやアクションでチームを鼓舞して引っ張っていると思った」と話すように、石川らしさで、けん引した。

 主将として初の代表シーズンが終わった。「充実していて、勉強になったことが多かった。(行動や言動などによって)キャプテンのようなチームになっていくと感じた。どれだけ情熱をもって表現できるかが、チームカラーになる」と石川。24年パリ五輪まではあと3年で、視線は切り替えている。アジア選手権決勝後、主将はチームに「それぞれのリーグ、シーズンで成長してこよう」と声を掛けた。

 絶対的エースとして、日の丸を背負う主将として見た景色――。主将は五輪での敗戦直後、目を赤くして相手コートを見つめていた。「今でも悔しい気持ちが残っている」と、確かにあの景色が目に焼き付いている。この思いは来年の世界選手権、そして3年後のパリ五輪へ。さらに進化した“石川カラー”の龍神ニッポンが見たい。(記者コラム・滝本 雄大)

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