時給850円のアルバイト、コーチとの共同生活が原点 足立和也は決勝進めず涙

[ 2021年7月30日 17:26 ]

東京五輪 カヌー ( 2021年7月30日    葛西臨海公園カヌー・スラロームセンター )

 男子カヤックシングル 準決勝で敗退し、肩を落とす足立和也
Photo By 共同

 スラローム男子カヤックシングルの準決勝に出た足立和也(30=ヤマネ鉄工建設)は、101・60点で16位にとどまり、10人が進む同日の決勝に残れなかった。

 「不甲斐ないレースだった。もっといいレースができた。悔しくて言葉がない」

 ゴール後、すぐに両手で顔を覆った。艇が、流れのままにぷかぷかとゆっくりと前に進んだ。誤算だった。序盤のゲートでつまずいた。「6番ゲートは苦手なポイント」と流れに飲み込まれ、失速。ゲートのギリギリの通過で懸命に挽回したものの、ゴールした時点で11位。準決勝敗退が決まった。

 メダルを狙って今大会に入っていた。予選の6位通過で、表彰台の輪郭が見え始めた。しかし、準決勝で、「決勝のことが少し頭にあった」と先を意識したことが裏目に出た。コロナ禍で国際大会にほとんど出られなかったことで、試合における気持ちのコントロールがうまくいかなかった。「こんなに崩れたことがなかった」と涙が何度もこみ上げた。

 駿河台大を中退し、山口県萩市にいた市場大樹コーチ宅に転がり込んで腕を磨いた。足立は、和食店でアルバイトをしながら資金を稼いだ時期があった。時給は850円。2015年まで3年間、週5日働いた。今は結婚して家庭を持つものの、コーチと男2人の共同生活をしたことが、競技生活の大きな転換点になった。

 日本にいても世界と戦えることを証明したかった。国際大会は、水流が一定の人工コースで行われる。しかし、国内に人工コースがないため、羽根田卓也を含めてほとんどの選手が海外を拠点としている。足立と市場コーチは、山口県内に流れる阿武川に根を張った。「裕福な選手ばかりじゃない。海外に行かなくても成功できる。それを証明することで、次に続く子どもたちが出てくる」。2人は強い信念で取り組み、W杯で2度の3位に入った。優れたバランス感覚で、世界の誰もマネできないような直線的なコース取りが持ち味。周囲をアッと驚かせるレースと結果を狙ったが、悔しい形で幕を閉じた。

 取材エリアでは、スポンサー、艇を製作したメーカー、家族、コーチ、全ての関係者へのお礼と、申し訳なさを口にした。遠くで雷鳴が響いた。涙雨も降っていた。 

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