稲見萌寧 キックボクシングトレでパット上昇!体感強化で安定 平均パット数19年43位→今季5位

[ 2021年7月21日 05:30 ]

キックボクシングトレーニングを行う稲見(撮影・福永 稔彦)
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 【メダル候補の心技体】新型コロナウイルスの感染拡大により五輪が1年延期となった期間に急成長を遂げ、日本女子ゴルフ界の顔となったのが稲見萌寧(21=都築電気)だ。今年だけで5勝を挙げて、逆転で2枠の代表入り。飛躍の裏には、キックボクシングのトレーニングで鍛えた「体」の変化があった。奥嶋誠昭コーチ(41)の証言から、その変化に迫る。

 明らかに二の腕、太腿、体全体が一回り大きくなった。ウエアのサイズは「M」から「L」に、体重は5キロ増えて迎えた21年。キックボクシングで鍛えた体で稲見は5勝を挙げ、1年前は「目標にも入れていなかった」という五輪切符を逆転でつかんだ。肉体改造へと21歳を突き動かしたのは、世界最高峰の舞台での挫折だった。

 昨年12月に米テキサス州で開催された海外メジャー、全米女子オープン。冷たい雨が降り、芝が濡れて球のランが出ない状況下で、稲見のティーショットは同組選手に20ヤードも置いていかれた。2打目以降のクラブが2番手は変わる距離。思わずつぶやいた。「これはちゃんとやんないとあと1、2年で私のゴルフ人生、終わるわ…」。19年に歴代最高のパーオン率を記録したショットメーカー。これまでは曲がることを嫌って飛距離にはこだわっていなかったが、逃げずに取り組むと腹をくくった。

 帰国後すぐにインターネットで検索。千葉市内のパーソナルトレーニングジムを見つけ、キックボクシングのトレーニングを取り入れた。グローブを着け、全身を使ってパンチやキックを繰り返す。オフは週6日ジムに通い、シーズン中も試合のない月曜日を使ってコンディションを維持した。筋肉をつけるとスイングやストロークなどの動きに影響が出る“副作用”も心配になるが、奥嶋コーチは「ウエートトレーニングだけだと(体の)動きが悪くなる部分があるけど、キックボクシングは動きを入れながらのトレーニングだから良かった。元々体が硬いが、ストレッチもやるようになって動くようになった」と証言する。

 飛距離が伸びた上で、今季フェアウエーキープ率も74・29%。体の軸が安定し、スイングのブレも減った。それだけでなく、思わぬところに“化学変化”が起きる。それは、弱点だったパットだ。パーオンホールでの平均パット数は19年の43位(1・8312)から、今季は5位(1・7725)まで浮上。「体幹で打てるようになってブレが少なくなった。うまくストロークできる回数が増えた」と奥嶋コーチ。ショットでつくったチャンスがスコアに反映され、勝利につながった。

 成果はスタミナ面にも及んだ。19、20年の2勝はいずれも3日間大会だった。今年は4月にヤマハ・レディース葛城で初めて4日間大会を制した。72ホールを戦い抜くには体力と集中力が必要となる。日々の練習でも昨年までは集中力が続くのが「1時間から1時間半」(奥嶋コーチ)で、それ以外はしゃべりながら練習していた。それが今年は午前8時から午後9時まで、休憩を挟んで10時間以上、黙々と球を打つようになったという。トレーニングが精神面にも好影響をもたらした。

 五輪のゴルフ競技は4日間72ホールで争われ、会場は埼玉の霞ケ関CC。難易度の高いセッティングに真夏の暑さも加わり、技術だけでなく体力勝負になることは間違いない。積み重ねた努力の成果を発揮するのにふさわしい舞台となる。

 《リカバリー率も上昇》稲見の昨季(19年)と今季(20~21年)の部門別成績を比較すると昨季歴代最高をマークしたパーオン率こそ数値が低下しているものの、ほとんどの部門でレベルアップしていることが分かる。特にパット数に関してはパーオン時、1ラウンドともに良くなった。またパーオンを逃した時にパー以上で上がるリカバリー率もアップ。ショートゲームの進化が平均ストロークの減少につながっている。

 ◆稲見 萌寧(いなみ・もね)1999年(平11)7月29日生まれ、東京都豊島区出身の21歳。9歳でゴルフを始める。18年プロテスト合格。19年センチュリー21レディースでプロ初優勝。師匠は奥嶋誠昭プロ。日本ウェルネススポーツ大在学中。1メートル66、58キロ。血液型A。

 《リオ大会は同年メジャー勝者が銀 松山は…?!》日本は松山英樹が今年のマスターズ王者として出場する。112年ぶりに正式競技に復活した前回の16年リオデジャネイロ大会で、直前のメジャー優勝者は勢いを持続できたのだろうか。

 金メダルは、ともに実力者ながら同年メジャー未勝利だったローズ(英国)と朴仁妃(パクインビ)(韓国)。メジャー勝者は4人が出場し、全英オープン優勝のステンソン(スウェーデン)、ANAインスピレーションを制したコ(ニュージーランド)がそれぞれ銀メダルと実力を発揮した。松山は新型コロナウイルス陽性判定でぶっつけ本番ながら、メジャー覇者の貫禄を示して2人の結果を上回れるか。女子は全米女子オープン優勝の笹生優花(フィリピン)らメジャー勝者3人が参戦。今季の勢いなら、国内5勝の稲見も負けていない。

 ゴルフと同様、4大大会が最高峰とされるテニスはどうか。リオ五輪の男子は同年2冠のジョコビッチ(セルビア)が1回戦で敗退した一方、直前のウィンブルドンを制したマリー(英国)が連覇。女子は全豪Vのケルバー(ドイツ)が銀メダルを獲得した。全豪女王の大坂なおみは精神面で不安はあるものの、まだ薄れない歓喜の記憶を追い風にしたい。

 ☆16年リオデジャネイロ五輪におけるゴルフ 112年ぶりに復活し、新設コースのレセルバ・マラペンディGCで開催された。日本からは男子の池田勇太、片山晋呉、女子の野村敏京、大山志保が出場。男子は英国のジャスティン・ローズが金メダルを獲得し、池田は21位、片山は54位。女子は韓国の朴仁妃(パクインビ)が金メダルで野村が4位、大山は42位だった。ジカ熱や過密日程の影響で松山英樹ら多数の有力選手が出場辞退したことも話題になった。埼玉・霞ケ関CCが会場となる今大会は男子に松山英樹、星野陸也、女子は畑岡奈紗、稲見が日本代表として出場する。 

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