「一志走伝」でつかんだ五輪切符、田中希実親子が走りに込めた思い

[ 2020年12月4日 17:30 ]

日本選手権長距離種目 ( 2020年12月4日    ヤンマースタジアム長居 )

<陸上日本選手権長距離種目  女子5000メートル>優勝を飾って笑顔を見せる田中希実(撮影・北條 貴史)
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 東京五輪代表選考会を兼ねた日本選手権・長距離種目が4日にヤンマースタジアム長居(大阪市)であり、女子5000メートルに優勝した田中希実(21=豊田自動織機TC)が五輪代表切符を手にした。

 父・健智コーチ(50)との親子鷹でTOKYO行きを決めた。田中家には、陸上のモットーというべき言葉がある。「一志走伝」だ。

 本来は「一子相伝」で、学問や技などの奥義を子ども1人に伝えるという意味がある。漫画「北斗の拳」で有名になった言葉だ。

 3000メートル障害で日本選手権に出場した父と、北海道マラソンを2回制した最強の市民ランナー」の母・千洋さんを持つ希実は、両親が築き上げた陸上の技術や哲学が教え込まれたものの、「北斗神拳」のような過激さは当然、ない。希実の妹にも同じように、陸上のエッセンスが注ぎ込まれている。言葉に込めた思いを、父はこう説明した。

 「走りで、周囲に伝えてほしい。負けても、伝わるものがある。負け方にもかっこよさがあると思っている。自分が今、歩んでいる道は、自分で切り開いたように感じるかも知れないけど、実は周囲が整えてくれている。みんなで一緒に道をつくって行こうという思いを持ってやっている。自分たちがやってきたことを子どもに伝える点では一子相伝だけど、子どもたちは、周囲の方のために、走りで思いを伝えてほしい」

 長女が兵庫・西脇工に入学する前に、この言葉を伝えた。一生懸命走ることで、感謝が伝わり、感動を与えるんだ―。そんな親の思いを、娘は体現している。

 今年、1500メートルと3000メートルで日本記録を樹立し、型破りなラストスパートで1500メートルの日本選手権を制した。日本選手権の1週間後、香川県での記録会5000メートルに出場。電撃参戦に、出場選手が客席に残ったり、関係者が観戦に訪れたりで、約200人が見守った。1周ごとに大きな拍手が起きた。レース後、田中は真っ先にメーンスタンド前に足を運び、大きく声を張り上げて「ありがとうございました」と2度、頭を下げた。

 「声援がすごく聞こえました。励みになりました」

 走りも人柄もまっすぐだから、周囲の共感を呼ぶのかもしれない。来年、国立競技場で「一志走伝」の思いを込めたスパートを見せる。

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