大坂なおみが米社会に与えたインパクト――変化するスポーツ界でよりリスペクトされる存在に

[ 2020年9月13日 21:00 ]

警察官の発砲で死亡した黒人少年、タミル・ライスさんの名前が入ったマスクを着用して女子シングルス決勝に臨んだ大坂なおみ(AP)
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 黒人差別への7枚の抗議マスクとともに戦い、全米オープン2度目の優勝を果たした大坂なおみ。強い信念で起こした一連の行動を米国はどう受け止めたのか。今月18日に創刊169年目を迎えるニューヨーク・タイムズ紙のデビッド・ワルドステイン記者(57)は、アスリートが政治的発言をできるようになった社会の変化を指摘し、大坂の覚悟に支持を示した。

 私は、ニューヨークのスポーツ記者として、今回の大坂なおみの行動を支持する。5月にミネアポリスで起きたジョージ・フロイドさんの死は、NBAをはじめ、複数の競技のプロアスリートたちの目を覚ました。声を出すべきだと。そして、団結の輪が広がった。全米オープンという世界中が注目する舞台だったことが大きい。テニス好きな子供たちにも伝わった。子供はスポーツヒーローの言うことは夢中になって聞く。影響力は大きい。

 かつてアスリートが、人種問題が絡んだ政治的発言をすることは大きなリスクがあった。1960年代、ムハマド・アリは徴兵を拒否し収監された。68年メキシコ五輪の表彰台で黒い手袋をして拳を突き上げたトミー・スミスとジョン・カーロスは、五輪から追放された。しかし、今はそうではない。多人種国家で、さまざまな異なる考え方が混在する米国でも、多くの人がなおみの行動を支持している。もし早々と負けていれば、ここまで話題にならなかっただろう。優勝してチャンピオンになったから、メッセージが脚光を浴びた。

 NBAのスーパースターだったマイケル・ジョーダンは一切、政治的発言をしてこなかったことで知られる。その理由は彼にとって重要なのは何より試合に勝つことだったから。メッセージを発信するか、しないかは個々のアスリートの選択。もっともジョーダンも今の時代ならこの輪に加わったと思う。それだけインパクトが大きい。米国の社会を変え、警察機構をより良い組織に変えるきっかけになるかもしれない。

 今回、なおみが黒人犠牲者の名前が入った7つのマスクをつけたことは、日本でも報道されたと聞く。スポーツの場で政治的発言をすれば、当然、批判の声もある。それでも、彼女は母親の母国である日本の人たちにもこの問題を考えてほしかったのではないか。

 NBAはリーグとして、黒人差別に対する一連の抗議行動を支持するなど、時代は変わりつつある。セリーナ・ウィリアムズの後を継ぐ女子テニス界のけん引者は、今回のことで、米国スポーツ界でよりリスペクトされる存在になったと思う。(ニューヨーク・タイムズ記者)

 ◆デビッド・ワルドステイン 米国生まれの57歳。ニューヨーク・ポスト、スター・レッジャーを経て、ニューヨーク・タイムズの記者に。テニス、MLB、NBA、大学バスケットボールなどを主に担当。テニスは03年からで、伊達公子、杉山愛らの取材経験がある。日本も2度訪れたことがある。

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