車いすバスケ界の悲痛な声 クラス分け再審査で物議 「こんな形で最後を迎えるのは胸が張り裂ける」

[ 2020年8月3日 09:30 ]

 車いすバスケットボールの世界で悲痛な声が上がっている。

 「私は“間違ったタイプ”の障がい者と見なされた。平等と(障がい者と共生する)包括性をブランドの土台にしようとしているIPC(国際パラリンピック委員会)が、心の狭い自分たちの基準に合わない選手を意図的に差別しているのは皮肉だ」(英国代表ジョージ・ベイツ=26)

 「こんな形でバスケットボール人生の最後を迎えるのは胸が張り裂ける。衝撃的で、控えめに言っても失望している。けれど、車いすバスケが私の人生にもたらしてくれた全てのものにはとても感謝している」(女子オーストラリア代表アナベラ・リンゼー=22)

 いずれも障がいによるクラス分けの再審査で国際車いすバスケットボール連盟(IWBF)から東京パラリンピック出場資格を満たしていないと認定されたことをSNSで打ち明けた。

 パラスポーツで公平性を保つには、各選手で異なる障がいの程度を正確に評価し、適切なクラス分けを行う必要がある。団体戦のバスケットボールでは障がいが最も重い1・0から4・5まで8段階で持ち点が分けられ、コート上の5人は合計14点以内で構成されなければならない。このクラス分けが問題だった。

 今回、再審査の対象となった障がいの程度が軽い4・0と4・5の選手。軽快な動きが可能なポイントゲッターとして重要度が増し、IWBFはIPCが定めた選手資格の要件を満たさない関節炎や膝が悪い選手らの出場を認めるケースがあったという。IWBFは今年1月にIPCの基準を守っていないとして再審査を求められ、対応できなければ東京パラの実施種目から除外すると警告されていた。IWBFは7月29日に対象だった132人のうち9人が基準を満たさなかったことを公表。氏名や国籍は明かしていないが、そのうちの2人がベイツとリンゼーだった。IPCは以前からIWBFに是正を求めていた。大会除外の警告を受けて重い腰を上げた競技団体のツケを現場の選手が払わされたわけだ。

 17歳で膝を負傷してバスケットボールができなくなったリンゼーにとって、車いす競技は「救世主」だったという。米国のカレッジでアスリート生活を送り、母国で代表になるという夢が実現した。「世界中を遠征して夢にも思わなかった経験をさせてくれた。オーストラリア代表のユニホームに袖を通すことができたのは私にとって最も誇らしい成果の1つ」。チームメートに対しては「あなたたちのファンになるという新しい役割が待ち切れない」とメッセージ送った。東京パラ不適格宣告は衝撃的だったはずだが、現実を受け止めて引退を宣言。大半が感謝の気持ちや前向きな思いで埋められたインスタグラムが痛々しかった。

 一方のベイツは決定に猛反発した。「どうすればアスリートを身体的に唯一プレーが可能なスポーツから除外することができるのか?」と訴え、IPCに対して選手資格の要件見直しを嘆願。インターネットで募っている署名運動には8月2日の時点で1万人以上が賛同している。

 ベイツは11歳の時にサッカーで負傷して手足を中心に慢性的な痛みや感覚異常、運動異常などの症状を伴う複合性局所疼痛(とうつう)症候群(CRPS)と診断された。「15年にわたって四肢の動きが制限され、筋肉が衰える中で継続した痛みにさらされてきた」と振り返る。不適格の判定後には担当医と話し合い、競技活動を継続するために足を切断することも選択肢の1つになったという。

 IWBFのメーレンス会長は今回の再審査に際して「不適格とされた選手はシステムを欺こうとしたり、意図的に誤った分類をされたわけではないことを強調したい」とコメント。さらに「再審査で影響を受けた選手が競技を続けられる仕組みを整える」と続けた。

 パラスポーツでは過去に運動機能を低く偽るなど「障がいの偽装」で処分を受けたケースもあるが、今回のように非がない選手がパラ本番を控える中でしわ寄せを受けるのはおかしい。是正勧告に対応してこなかったIWBFに問題はあるが、是正させられなかったIPCにも責任の一端はある。予選と本大会で出場資格に違いがあるのは選手にとって受け入れがたいはずだ。東京パラに関しては予選に出場した選手に限って従来のクラス分け通り本大会の出場を認めるなど妥協点を探ることはできないのか。残された時間は少ない。(東 信人)

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