上野が咲かす満開の桜 1年後の自分に手紙「頑張れ!」 五輪開幕戦のはずだった誕生日の誓い
東京五輪の1年延期がなければ、7月22日は、開会式に先駆けて、ソフトボールが全競技の中で最も早く開幕戦(福島県営あづま球場)を迎えていた。また、この日は日本代表の上野由岐子(ビックカメラ高崎)の38歳の誕生日でもあった。絶対的エースは、このほどスポニチの電話取材に応じて現在の取り組みと心境を語るとともに、特別な一日である「7月22日の誓い」として、1年後の自分に手紙を書いた。
7月22日にまつわるできすぎたストーリーが幻になった。東京五輪の全競技の初戦と、38歳の誕生日が重なるはずだった上野は、1年延期が決まった3月は、「やっぱりか、という思いと同時にショックだった。もう1年頑張らないといけないのかという気持ちになった」と打ち明けた。
予定通りなら、桜の花びらの模様を網部分に入れた“桜吹雪グラブ”を手にして、4年に1度の祭典の幕開けを告げるはずだった。
元々「他国の選手は自分たちの道具を注目して見ているんですよ。日本ぽいグラブにしたくて。日本といえば桜だなって」という考えで、15年から白い模様を入れていた。1年ごとに1枚ずつ花びらをピンクに着色。五輪用は、花びらが5枚そろった開花模様もピンクにしていた。
手を入れる箇所にも気持ちを表した。刺しゅうは「IT’S SHOW TIME(ショーが始まる時間だ)」。ソフトボールは、24年パリ五輪で除外になる。今回が自身最後の五輪かもしれない。そこで08年北京に続いて世界一になるために、「楽しみたい。ベストパフォーマンスを出したい。ここに懸けているそんな思いを、言葉にしたかった」と英語で表現した。
1年ごとにグラブを新調するとはいえ、商売道具に込めた2020年の思いや情熱は、来季も同じだろう。現在の状態は良好だ。1月から続けてきた近年にない“本気の調整”を4月だけ小休止。5月から肩をフル稼働させている。昨年の顎の骨折は完治。不安材料が見当たらない。
「1月からずっと気が張っていたので、4月は一度リセットするためにものらりくらりと過ごしました。5月の既に暑くなっている時季にしっかりと投げ込みができたので、濃いものができたんじゃないかなと思っています。成果を9月のリーグ戦で試せれば」
コロナ禍で得たものもある。ヨガに初挑戦。1週間に1度、1時間のオンラインレッスンを受けた。「呼吸が凄く難しかった。鼻呼吸でいかに酸素を体に巡らせるのか、というのが発見だった。日常でも取り入れ、日常生活を変えることでパフォーマンスにつながればいいなと思います」。38歳の向上心が衰えることはない。
「1年の延期はあまり心配していなくて。1年分、積み重ねるものが増えるので。それを来年発揮できるようにしたいな。1年延期で球種が増えた、投球の幅が広がったとなるように準備をしたい」
17日に21年の日程が発表になった。39歳の誕生日前日の7月21日に、全競技に先駆けて開幕する。来年こそ、その手で満開の桜を咲かせる。
《女房役が太鼓判》代表と所属チームで女房役を務める我妻悠香(25)は「試合がないのがもったいないくらいのボールを投げている」と上野の状態に太鼓判を押した。曲がる位置、曲がり幅など細かい精度を追求してきた。浮き上がるように変化する「ライズボール」の切れは特に安定しているという。新しい球種にも取り組んでいるようで、「相手チームや試合のネット配信の状況に応じて、実戦で試したい」と、五輪まで秘密裏にテストを重ねるようだ。
▽金メダルへの道 6チームが1回戦総当たりの1次リーグをし、上位2チームが決勝戦、3、4位チームが3位決定戦を行う。北京五輪まであった敗者復活戦を含む「ページシステム」は採用されない。
◆上野 由岐子(うえの・ゆきこ)1982年(昭57)7月22日生まれ、福岡市出身の38歳。小学3年から競技を始め、九州女高(現福岡大若葉)から01年にチームの前身の日立高崎入り。国内リーグの勝利数、奪三振数、完全試合回数などで数々の記録を樹立。五輪初出場の04年アテネで銅。08年北京は、決勝までの2日間3試合を1人で413球を投げ抜き金メダル。1メートル75、73キロ。
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