石川佳純をどん底から救った“持ってる”妹・梨良さんのサポート 言葉で後押し「頑張らずに頑張ろう」

[ 2020年6月2日 05:45 ]

2020 THE STORY 飛躍の秘密

石川佳純
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 卓球女子の世界ランク9位・石川佳純(27=全農)の東京五輪ロードには、心強い支えがあった。激しい代表争いに身を置いた19年。7月のワールドツアー、オーストラリア・オープンから石川に同行したのが妹の梨良(りら)さん(22)だった。3大会連続となる夢舞台につながった、身近な存在のサポートに迫る。

 苦しい戦いを終え、石川が泣いていた。19年12月12日、中国・鄭州でのワールドツアー・グランドファイナル。自身が1回戦で敗れた約1時間後、ライバルの平野美宇も1回戦で敗退し、石川が東京五輪のシングルス代表に決まった。「長かった…」と感極まる石川に、心からねぎらいの言葉を贈る女性がいた。「五輪レース、お疲れさまでした」。妹の梨良さんだった。

 19年前半、石川はツアーの早いラウンドで中国人と対戦することが多く、早期敗退が続いた。流れを変えるため、身近な存在の力を借りた。妹は石川家では強運で知られ、福を運ぶ“福子”と呼ばれていた。「コンサートの倍率が高いチケットが当たったり、昔から“持ってる”と姉からも言われていた」と梨良さんは笑う。

 青学大卓球部でプレーしていた梨良さんは、時間をつくって姉の遠征に同行することを決断。「練習相手もできるし、家族だから身の回りのことも気兼ねなく頼めるかなと思って」。初めてサポートに回った7月のオーストラリア・オープンで、いきなり姉は結果を出した。準々決勝で世界1位の陳夢(チンム、中国)に4―3で勝利。7度目の対戦で、初めて強豪を撃破した。

 小さな頃は毎日のように姉妹げんかを繰り返したが、梨良さんが小学2年になると、そんな日常は終わりを告げる。中学生になった姉は、より強くなれる環境を求めて山口の実家を離れた。以降、会えるのは全日本選手権の応援の時くらい。「凄い寂しかった。照れくさくなっちゃって、会ってもあまり話ができなかったり…」と梨良さんは振り返る。

 梨良さんは中学生になると、味の素ナショナルトレセンを拠点とするエリートアカデミーに入校。姉と顔を合わせる機会が増えた。「たくさん話すようになって、私が中学生になってからは、けんかは一度もないですね」。梨良さんも五輪を夢見て、汗を流していた。「姉が凄いからといって、嫉妬とかは全然なくて。ああいうふうになりたいと思って見ていました」と言う。

 大好きで憧れの存在だったから、東京を目指す姉をサポートできるのはうれしかった。遠征には炊飯器を持ち込み、試合前の軽食としておにぎりを作った。ヘアピンが足りなければ、走って取りに行った。姉がリラックスできるように、妹はいつも通りを心がけた。「周りがピリピリすると良くないと思って。芸能ニュースの話とか、最近のドラマの話とか、少しでも普通の時間に戻れたらと思っていました」と明かす。

 19年秋、石川はどん底の状態だった。10月のスウェーデン・オープンは初戦で敗れ、翌週のドイツ・オープンも2回戦敗退。「東京五輪、ちょっと無理かもなぁ…」。弱気な姉に、妹は言った。「五輪のことを考えずに、頑張らずに頑張ろう。無理だったら、無理でいいじゃん!」。石川の心は少し、軽くなった。

 12月上旬のノースアメリカン・オープン。決勝で平野との直接対決を制し、代表が懸かる世界ランクのポイントで逆転。有利な立場で続くグランドファイナルを迎え、夢切符を手に入れた。新型コロナウイルスの影響で東京五輪は1年延期となったが、卓球は代表維持を早々に決定。3度目の夢舞台に向かう石川に、梨良さんはエールを送る。

 「シングルスでメダル、団体でも金メダルを獲ってほしい。思い切って、楽しんでプレーしてほしいな」

 現役生活に別れを告げた梨良さんは今春、青学大を卒業して一般企業に就職。これからも可能な範囲で、姉のサポートを続ける。21年夏、東京体育館。大好きな姉が、歓喜の涙を流していることを信じて。

 【佳純と五輪】
 ▼12年ロンドン 当時の世界ランクは6位。19歳で初めて五輪に出場した。シングルスは準決勝で李暁霞(中国)に敗れ、3位決定戦でもフェン・ティアンウェイ(シンガポール)に屈してメダルに届かず。福原愛、平野早矢香とともに出場した団体は、日本卓球界初の表彰台となる銀メダルを獲得した。

 ▼16年リオデジャネイロ 当時の世界ランクはロンドン時と同じ6位。シングルスは初戦の3回戦でキム・ソンイ(北朝鮮)と対戦。第6ゲーム途中に右ふくらはぎがつるアクシデントもあり、3―4で敗れた。福原愛、伊藤美誠との団体は準決勝でドイツとの3時間54分の死闘の末に敗れたが、3位決定戦でシンガポールを撃破。団体では5戦全勝の活躍で2大会連続表彰台となる銅メダルを手に入れた。

 ◆石川 佳純(いしかわ・かすみ)1993年(平5)2月23日生まれ、山口県出身の27歳。7歳で卓球を始める。中学3年の07年世界選手権で初めて代表入り。12年ロンドン五輪は団体銀メダル、16年リオデジャネイロ五輪は団体銅メダルを獲得した。1メートル57。

 ◆石川 梨良(いしかわ・りら)1997年(平9)6月14日生まれ、山口県出身の22歳。7歳で卓球を始め、中学入学と同時に上京し、エリートアカデミーに入校。青学大に進み、19年秋季関東学生リーグの優勝に主将として貢献し、現役を引退した。1メートル58。

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