ソフトボール、仮想現実で仮想米国トレ VR技術駆使しライバル国投手陣攻略へ

[ 2020年2月4日 09:30 ]

2020THE WEAPON~勝利の秘策

VRを体験するソフトボール女子日本代表。グラウンドではなく研究室でスイング(NTT 柏野多様脳特別研究室提供)
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 東京五輪で金メダルを目指すソフトボール女子日本代表が、「仮想現実トレ」の導入を進めている。専用ゴーグルをかけると、投手の映像が映し出され、本物そっくりのボールの軌道や球速を体感できる。バーチャル・リアリティー(VR)と呼ばれる技術を駆使し、剛速球投手と魔球ドロップ投手を擁するライバル米国投手陣の攻略への糸口を探る。(倉世古 洋平)

 専用ゴーグルを着ければ、まるで打席に立っているかのような感覚を得られる。対戦したい実物大の投手がマウンドに上がり、球速と変化球の軌道は、限りなく本物に近い。スイングをすれば、打感こそ残らないものの、タイミングなどをコンピューターが瞬時に計算し、「本塁打」、「空振り」などを判定。人工的に作られた映像で疑似体験をできるのが、VRの特長だ。

 矢端信介チームリーダー(56)は「蓄積したインテリジェンス(情報)をどう五輪で生かすかが重要」と意欲を示した。

 日本ソフトボール協会はNTTとの共同実験を17年から始め、各国のデータを蓄積してきた。カメラ1台が正面からの投球フォームを収め、別の2台がボールの軌道を撮影。その映像を基に分析、編集し、コンピューター上で再現している。

 昨夏、日本代表は同社で一度VRをテストした。初挑戦した市口侑果内野手(27)は「投手のイメージがしやすい」と好感触を得た。担当する同社の柏野多様脳特別研究室スポーツ脳科学プロジェクト主幹研究員・山口真澄さんは「米国投手のデータはそろっている。五輪本番に向けて組み立てていく」と高い完成度を目指す。

 VRはプロ野球・楽天が導入したことで有名だ。女子ソフトボールは野球よりも投球距離が約5メートル短い13.11メートル。トップレベルの球速110キロの体感速度は、野球の160キロ以上とも言われる。本塁到達まで0.5秒ほど。反応、判断を磨くために、既にVRを導入したチームがある。

 日本リーグの日立は、3年前に取り入れた。同チームで数々のリーグ記録を樹立した「女イチロー」こと、日本代表主将の山田恵里外野手(35)は「投手が目の前にいて、そのままの軌道が出てくるので、試合のような感覚を得られる」と効果を口にした。

 バットが振れる場所さえあれば、どこでも使えるのがメリット。北京五輪で金メダルに導いた元日本代表監督の日立・斎藤春香監督(49)は「110キロ以上投げる女子はそういない。それを体感でき、変化球のタイミングが取れるのもいい」と打撃向上の手応えをつかんでいる。

 金メダルへの最大のライバルとなる米国には、二枚看板がいる。モニカ・アボット(34)とキャット・オスターマン(36)の両左腕だ。矢端リーダーは「アボットのライズボールとオスターマンのドロップ」と警戒ポイントを挙げた。

 110キロ台を投げるアボットは、トヨタ自動車のエースで、日本勢はなじみがあるが、北京五輪の決勝で投げたオスターマンは違う。15年に引退して昨年、代表に復帰したばかり。対戦回数が少ないため、鋭く曲がって落ちる世界一のドロップの対策には、VRが効果的と考えられる。

 情報先進国の米国は、さまざまな技術で日本を丸裸にすることが予想される。日本はVRで対抗。得点を奪うのが至難の業の両左腕から、1点をもぎ取る。

 《7・22に初戦 開会式前に開幕》 ソフトボールは東京五輪の全競技の中で最も早く始まる。7月24日の開会式の2日前、22日が開幕戦で、福島県営あづま球場で行われる。この日はエース上野由岐子投手の38歳の誕生日だ。6チーム(別表)が総当たりの1次リーグを行う。1、2位が決勝、3、4位が3位決定戦(ともに28日、横浜スタジアム)へ進む。

 《代表15人は3月末に決定》 日本代表19選手は1月12日からのオーストラリアでの強化合宿と国際試合を終え、2月4日に帰国する。エース上野由岐子は今回、不参加だった。9日からのグアム合宿、3月の沖縄合宿を経て3月末に代表15人が決まる。投手、捕手、一塁手、右翼手が激しい争いになっている。

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