【上水研一朗の目】好機逃した向 延長戦が頭よぎり欠いた集中力

[ 2019年8月30日 05:30 ]

<2019世界柔道選手権5日目>男子90キロ級決勝、優勝を逃し悔しがる向(撮影・会津 智海)
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 調子の良かった男子90キロ級の向は、世界一になる好機を逃したというのが正直な印象だ。強豪選手が次々と消え、勝ち上がりも悪くなかった。だが、決勝のメディカルタイムアウト後、延長戦が頭をよぎったのか、少し集中力を欠いたように見えた。相手が狙っていた、大外刈りから小外刈りの連携に屈した。

 元々、技のキレは抜群で、得意の背負い投げ以外に左右の袖釣りや巴投げなど技の幅を広げ、相手に的を絞らせなかった。外国人選手に慣れ、無理な接近戦を回避する「大人」の内容にも成長が見られた。ただし、優勝していれば大きくリードしたはずの代表争いは、まだ混沌としていると言える。最後まで目が離せない階級となるだろう。

 どんなに素晴らしいストレートを投げても、分かっていればいつか打者は打つ。女子70キロ級の新井のこの日を野球に例えれば、そういう感じだろうか。新井の柔道は「正しく持って正しく投げる」という正統派。だが、世界選手権を2連覇している女王が研究され、対策されるのは宿命だ。

 初戦から相手はすべて、新井の体勢を崩すことに集中していた。敗れた試合の相手選手は、組み手が決まる前、つまり組み際に、一本背負いと払い巻き込みを繰り出すことを徹底していた。ポイントを取られたあと、攻めていた寝技で「待て」のタイミングがやや早かったのは不運だったが、初戦から動きが少し硬かった新井は、術中にはまってしまったかっこうだ。

 形になれば強いのは分かっている。では組めない時に、引き手や釣り手だけでどう攻めるのか。その引き出しがもう少し欲しい。ここで一度立ち止まって敗因を分析し、組み際の技などをプラスしていければ、来年は巻き返せると思う。(東海大体育学部武道学科教授、男子柔道部監督)

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2019年8月30日のニュース