17歳・島田高志郎に吹き込まれた日本フィギュアのDNA 急成長へ“45分のブラッシュアップ”

[ 2018年12月30日 12:42 ]

<ジュニアグランプリファイナル2日目>ジュニア男子フリー、3位に入り笑顔を見せる島田高志郎(撮影・小海途 良幹)
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 2018年12月4日のカナダ・バンクーバー。既に日の落ちた郊外のリンクで、島田高志郎(17=木下グループ)は、焦りの混じった白い息を吐いていた。2日後に開幕するジュニアGPファイナルのため現地に到着したばかり。日本の選手たちに与えられた45分の練習。しんがりで合流した島田にとっては、感覚を呼び覚ます日常の時間のはずだった。

 「初日に(シニアと)合同練習をさせてもらって、サメの群れの中に自分がいる感じで…。リンクも小さかったので、凄いハイスピードで回っているので、自分は目が回ったりしていた」

 シニアと合同となるファイナルの舞台。そこには世界の第一線を走る日本の4選手がいた。平昌五輪銀メダリストの宇野昌磨はフリー曲「月光」を流し、その感覚を研ぎ澄ませる。「ミス・パーフェクト」の宮原知子は何度も連続ジャンプに挑み、後に全日本女王となる坂本花織は振り付け確認に余念がない。紀平梨花はトリプルアクセルをバシバシと決めていた。

 見守る関係者が「みんな練習の虫」と評する日本代表は、この日も複数回の練習で本番へ総仕上げを行っていた。そんな先輩たちと同じ空間を共有する貴重な45分間。大きな刺激を受けた島田は苦笑いを浮かべ、こう振り返る。

 「僕はサメの子供でした」

 羞恥心にも似た感情が、17歳の心を突き動かす。一夜明けた公式練習後、島田は「せっかくの機会なので、自分をアピールしたい」と吹っ切れた。昨夏からスイスへと拠点を移し、元世界王者のステファン・ランビエル氏に師事。英語にも慣れ、全て自炊でメンチカツなどを作りながら、師匠のような表現力豊かな演技を目指す。自身が求めた環境で日々、積み上げてきた努力。そこに日本を背負う責任と自覚が一気に注入され、戦う男の目に変わった。

 果たして、ジュニアGPファイナルでは銅メダルを獲得。4回転トーループも決めた。その後の全日本選手権では、宇野、高橋大輔に続くショートプログラム80・46点で3位発進してみせた。あのバンクーバーで受けた45分の衝撃。その体験は日本代表のDNAとして、島田の体に確実に染み込んでいた。

 成功と失敗を繰り返しながら、大人への階段を上る17歳。全日本のフリーは最終滑走の重圧からか11位に沈み、合計5位だった。「平成最後の全日本の締めくくりとしては本当に申し訳ない演技をしてしまった」。そう肩を落とす弟子を見たランビエル氏は「とても重要な経験を積んだ」と優しく語りかけた。自らを稚魚に例えた島田が、急成長を遂げている。その契機が“45分のブラッシュアップ”だった。

 平成最後の全日本滑走者は、こう言い残して会場を後にした。「自分は戦い抜いた。ファイナル、全日本と忙しい期間ではあったんですけど、スケート人生の糧になる経験ができた。今後に生かせることは間違いない」。新元号での躍進――。その時を描いて。(大和 弘明)

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