日本航空石川・岩根 天国の父に贈った全力プレー 初戦敗退も「来年は一つでも多く勝ちたいです」

[ 2018年12月30日 17:23 ]

98回全国高校ラグビー第3日・2回戦   日本航空石川(石川)12―28国学院栃木(栃木) ( 2018年12月30日    東大阪市・花園ラグビー場 )

<全国高校ラグビー 国学院栃木・日本航空石川>後半20分、反撃のトライに笑顔の日本航空石川・岩根(左)(撮影・北條 貴史)  
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 日本航空石川の宿舎内にあるミーティングルームには、この日にかける一人一人の思いが貼り出されていた。小林学監督はそれぞれを見て回った。「みんな、いろいろな言葉を書いていました」。Bシードとして臨んだ今大会。FB岩根豪太(2年)がしたためたメッセージは、今は亡き父に向けられたものだった。

 『お父さん、いろいろあったけど、花園で頑張るわ』

 並々ならぬ決意を持って、岩根は同校への進学を決意した。東大阪市の小阪中学3年生だった17年2月25日。余命宣告を受けた父・正英さんは家族会議を開き、その事実を伝えた。号泣、沈黙、また号泣…。打ちひしがれた岩根を前に、正英さんは尋ねた。

 「それでもお前、石川へ行くんかい?」

 「近くの公立に入ってアルバイトして、お母さんのことを助けたい…」

 「お前はそんな根性なしか、そんなんやからアカンのじゃ!」

 大黒柱を失うかもしれない家族のことを思っての言葉だったが、父はあえて厳しく突き放した。子供たちが経済的な心配はしないで済むよう、すでに身の回りの準備は終えていた。母もできうる限りのバックアップを約束してくれた。

 「どやねん、石川行くんかい?」

 「分かった、石川行く!」

 「よっしゃ、行け!」

 送り出した正英さんも気力を振り絞り、懸命に生きた。4月の入学式へ出席するため、抗がん剤治療は拒否。門出をこの目で見届けるべく、能登半島にある同校の入寮式、入学式に付き添った。小林監督には「私はいつまで見られるか分かりませんが、よろしくお願いします」と頭を下げ、息子を託した。父としての役割を全うし、5月2日にその生涯を終えた。

 天国の父に勝利を届けることはかなわなかったが、憧れの舞台に60分間立ち続けた。指揮官が「いろんな言葉を発せられるし、ラグビーをよく理解している」と評する2年生FB。下級生8人がスタメン出場した若いチームで、来季は中心選手として期待がかかる。

 「この高校で頑張ると決めて石川に来ました。空からでも、お父さんに成長した姿は見せられたと思います。この2年間、しんどいこと、楽しいこといろいろとありましたが、またみんなで一緒に頑張って、来年は一つでも多く勝ちたいです」

 初戦敗退で味わった悔しさは、必ず糧となる。試合直後に流した涙は、もうない。ラストシーズンを見すえる眼差しには、力がこもっていた。

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2018年12月30日のニュース