地球にスポーツは存在できるのか?実りある1年に思う未来への不安

[ 2018年12月26日 08:00 ]

カリフォルニア州で多発した山火事(AP)
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 【高柳昌弥のスポーツ・イン・USA】どこかの大統領は否定しているが、地球温暖化の影響は世界各地で目に見える形となってきた。北極でも南極でも氷がかつてないスピードで崩壊し、ロシアのシベリアでは永久凍土の融解で地盤が沈下。建物が傾いたり、基礎部分がむき出しになったりしているという。

 日本も例外ではなく、温帯地域にはかつてなかった“熱帯現象”に悩まされるようになった。高温、豪雨、強風。米国では落雷と竜巻、さらに山火事による被害がかつてなかったほど急増してしまった。

 ハワイ島では溶岩が町全体を破壊し、インドネシアでは地震ではなく火山の噴火で津波が押し寄せた。温暖化の影響ではないかもしれないが、地球がこれまでになかった姿を見せ始めたようにも感じた。

 米フロリダ半島は海面上昇(20世紀だけで19センチ)によってやがてその面積が縮小されるという予測もある。フロリダ州にはNFLで3つ、大リーグとNBA、NHLでそれぞれ2つのプロチームが存在しているが、100年先にさて何チームが同じフランチャイズにとどまっているだろうか?

 米カリフォルニア州サクラメントを本拠にしているNBAキングスのアリーナでは今年の11月、試合中に館内が白い煙に包まれるというハプニングがあった。周囲で多発した山火事の影響を直接的に受けたプロチーム。スポーツ界の風景も徐々に変わっていくことだろう。

 もっと先の世界を考えてみる。米国の西部の水資源を支えているのはロッキー山脈などの山岳部に降り積もる雪。白銀の世界があってこそ人々の生活が保たれている。しかし積雪量は年々減少。このままいくと、スポーツはおろか、多くのものが失われていく。そう「極端な悪夢」を現実的に考える時代になったのだ。

 日本では高校野球などでの熱射病が話題となった。2年後に迫ってきた東京五輪での屋外競技における影響も懸念されている。女子マラソンは8月2日に行われるが今年の同じ日、最低気温は26・7度で最高気温は37・3度だった。五輪本番ではスタート時間を午前5時半にまで繰り上げることが検討されているようだが、今年の8月2日午前5時半の東京の気温は27・9度。湿度は90%だった。

 私もフルマラソンの完走者の1人だが、この気象条件の中でのレースは絶対に無理。トップレベルのアスリートなら乗り越えられるという楽観論を抱くのなら、それは選手の健康を犠牲にしている大会運営としか言いようがない。

 2100年の地球の平均気温は1960年比で最大4・8度上昇するという報告もある。今年の8月2日の午前5時半にあてはめてみると、82年後の同日同時刻の気温は32度前後。スタートする前に全選手が酷暑の中にさらされている未来の姿が見え隠れしており、そうなるとそもそも夏季五輪での屋外競技はすべて廃止せざるをえないだろう。

 米カリフォルニア州ロサンゼルスで2022年に行われる夏季五輪の開催期間は7月21日から8月6日。山火事、水不足、酷暑をどうやって回避するのかは五輪存続に関わる重要なテーマになりそうだ。

 私事で恐縮だが火星人(姿はほぼ人間)の夢を見てしまった。環境悪化で他の星に移住せざるをえない状況。そこで地球を目指そうとしたのだが、みんなでこうぼやいている。

 「過酷な環境だな…」。

 スポーツが永遠に存在するとは思えない。ただ、人間は愚かさに気がつく理性も持っている。だから未来の人たちのために、今を生きる我々が何かをやるべき時だ。便利な生活を享受してきた世代にはきついかもしれないが、「よいお年を」とあいさつしたたあとは、どこかでこの星が抱える問題をみんなで考えてほしい。

 さて2018年は皆さんにとってどんな年だったのだろうか…。「だよね〜」で話題となった?平昌五輪(韓国)での日本勢の活躍は素晴らしいものがあった。サッカーのW杯(ロシア)で日本がコロンビアに勝ったときには思わず絶叫。大リーグに打者と投手の二刀流でデビューした大谷翔平選手は日常生活での話題の中心だったかもしれない。バスケットボール世界最高峰のリーグ、NBAでは渡辺雄太選手が日本人選手として14年ぶりに出場。16年間書き換えられていなかった男子マラソンの日本記録はこの1年で2度更新され、卓球やバドミントンでは世界的な“エース”も誕生した。

 スポーツ記者としては実りが多かった1年。ただしこんな「物書き業」も昔からバトンをつないできた世界だ。多くの諸先輩が書き綴った表現、取材方法、偉業や大記録のとらえ方、そして選手や関係者とのコミュニケーションのやり方。目に見えぬ多くの“宝”がいたるところに散りばめられている。

 私も誰かにバトンを手渡す年齢になった。どこまでこのバトンはリレーされていくのだろう?千年先にもスポーツという世界が地球に残っていてほしいと切に願うのだが、その夢はかなえられるのだろうか?

 平成の年末もこれが最後。さて地球の“体調”が悪化するなかでどこまでこの星の未来を見ていられるだろう…。時は刻々と過ぎている。不安がないと言えば嘘になる。それでもスポーツをこよなく愛する人たちとあと少し時間を共有できれば幸せに思う。ではよいお年を。もちろん「条件付き」で…。

 ◆高柳 昌弥(たかやなぎ・まさや)1958年、北九州市出身。上智大卒。ゴルフ、プロ野球、五輪、NFL、NBAなどを担当。NFLスーパーボウルや、マイケル・ジョーダン全盛時のNBAファイナルなどを取材。50歳以上のシニア・バスケの全国大会には8年連続で出場。今年の東京マラソンは4時間39分で完走。

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