川内優輝 市民ランナーとして“最後”の福岡国際はエポックメーキングに

[ 2018年12月1日 08:35 ]

川内優輝
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 今夏が猛暑だったことも忘れるくらい、めっきり涼しくなった。本格的な冬の足音が近付いてくるにつれ、あの男も復調の兆しを見せてきた。公務員ランナー川内優輝(31=埼玉県庁)だ。11月の上尾ハーフマラソンでは自己ベスト(1時間2分18秒)に迫る1時間2分49秒をマーク。「ボストンマラソン以降の不調を払拭するレースだった」とその表情は自信に満ちていた。

 今年の猛暑は日本列島にさまざまな被害をもたらしたが、川内にもダメージを与えていた。夏季は高地など涼しい場所で練習を積むプロランナーや実業団選手とは違い、公務員の川内が主に練習するのは仕事場のある埼玉県内。比較的涼しい時間帯に走るとは言え練習の質も量も想定以下だったという。練習量不足もたたり、10月のシカゴマラソンでは2時間16分26秒、ベニスマラソンでは道路が冠水するというアクシデントもあったが自己ワーストの2時間27分43と不調に苦しんでいた。「福岡もどうしようかなと言う状況だった」と振り返る。

 ただ、気温が低下してきたことと反比例するように川内のバロメーターは急上昇。ベニスマラソン以降は順調に練習が積めているといい、福岡国際マラソンの試金石になる上尾ハーフでは埼玉県庁カラーというグリーンの別注シューズを履いて上尾市内を激走。目標タイムを達成して手応えをつかんでいる。

 視線の先にある福岡国際マラソンは川内にとって幾度も転機が訪れたマラソンと言える。2年前には直前で足首を故障。痛みをこらえながらもロンドン世界選手権代表の座を勝ち取った思い出深いレースだ。

 ボストンマラソン優勝の余韻もつかの間、帰国した成田空港で周囲を驚かせたプロランナー宣言も福岡国際がきっかけだった。前回大会で、一足早くプロ生活をスタートさせていた弟の鮮輝(28)が自己ベストを大幅に更新。その姿を目の当たりにして「好きなときに練習して、好きなときにケアが出来る。そりゃ強くなりますよね」と熱弁するほど。プロへ舵を切るターニングポイントになったレースだった。

 走りに手応えが感じられると、自然と饒舌にもなる。福岡国際は19年ドーハ世界選手権の選考も兼ねる。酷暑の東京五輪は回避すると明言したが、ドーハは比較的涼しくなると予想される午前0時スタートが濃厚。普通の選手にとっての“悪条件”とも言える条件だが、川内の心の中にある日の丸への思いが再燃したようで「狙っていきたいですね」と静かに闘志を燃やす。

 2日の福岡国際マラソンは予想気温が20度と絶好の条件とは言えないが、「今夏の埼玉では40度超えることもあった。それを考えれば20度でじたばたしても仕方ない」と泰然自若。来春からプロ転向を表明している公務員ランナーにとって、市民ランナーとして“最後”の福岡は、やはり彼にとってエポックメーキングになるかも知れない。(記者コラム・河西 崇)

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2018年12月1日のニュース