64年東京五輪 柔道ニッポン金1号・中谷雄英さん「前座」と言われても…勇気つないだ一本勝ち
2020 THE YELL レジェンドの言葉
日本発祥の柔道が初めて五輪の正式競技となったのは64年の東京だった。中谷雄英(たけひで)さん(77)は日本武道館のこけら落としとなった10月20日の軽量級(68キロ以下)で見事に金メダルを獲得。柔道界に歴史的な第1号の金メダルをもたらした。当時はまだ「柔道=無差別」という意識が色濃く残っていた時代。意地と猛練習で栄光をつかんだレジェンドの熱い戦いを再現する。
中谷さんが初めて代表候補に選ばれたのは五輪の2年前、明大2年の時だ。「柔よく剛を制す」が神髄の柔道には元々、体重別という概念がなく、世界選手権も体重無差別で行われていた。しかし東京五輪で初めて体重別が導入されることになり、普段73キロだった中谷さんは軽量級で五輪を目指すことになった。
当時は今のように代表選考大会はなく、年間を通して随時開催される強化合宿と選考試合の内容で判断する方式だったため、いっときたりとも気を抜くことはできなかった。五輪までの3年間に実施された強化合宿は58回。参加選手は延べ1万7603人。その中から選ばれる五輪代表は、各階級1人だけという狭き門だった。
「高円寺に代表専用の合宿所があって、ほとんど住み込みで1日8時間くらい稽古しました。コーチからは国民の血税で強化されていることを忘れるなと言われましてね。もうみんな必死でしたよ。1日の稽古が終わると4キロぐらい痩せていましたから」
激しい争いを経て、中谷さんは五輪開幕1カ月前になってようやく代表に選出された。決め手となったのは2月の国際大会(モスクワ)で、日本勢の最大のライバルだったステパノフ(ソ連)に勝ったことだ。
「ステパノフにはそれまで日本の選手は誰も勝てなかった。でも、僕は前年に彼が来日した時の試合を見て研究していたので、得意の足払いで技ありを奪って勝つことができました。ラジオの放送で代表に選ばれたことを知った時は、うれしくて涙が出てきたのを今でもよく覚えています」
そして迎えた試合当日、中谷さんは重圧を吹き飛ばすような快進撃で一本勝ちを重ねた。準決勝では強敵ステパノフに合わせ技で再び快勝。決勝ではスイスの25歳、ヘンニと対戦した。
「顔が緊張で引きつっていたんでしょうね。コーチが気持ちをほぐそうと“おい、中谷、スタンドには美人がいっぱいいるぞ”と声を掛けてくれたらしいんですけど、耳に入りませんでした」
極度の緊張状態に置かれた中谷さんだったが、主審の「始め!」の声が掛かった瞬間、勝手に体が反応した。得意の足技で攻めまくり、まず小外刈りで技ありを奪う。さらに大内刈りでヘンニを畳に叩きつけた。だが、主審の手は上がらない。すかさず副審がアピール。審判団の話し合いが延々続いた。だらしなく足を投げ出して座る相手に対し、中谷さんは静かに正座したまま判定を待ち続けた。
「決勝はきれいに一本勝ちしたかった。でも、待っているうちに、どんな形でも勝てばいいと思うようになりました。勝つことが僕の使命でしたから」
協議が始まってから5分後、ようやく審判団の輪が解けた。主審の手がさっと真横に上がる。技あり。合わせ技で一本勝ち。柔道が五輪で初めて金メダルを獲得した歴史的な瞬間だった。
「うれしいというより、やっと終わったという感じの方が強かったですね。僕は1番バッターだから、後の人たちが勇気が出るような勝ち方をしなくちゃいけなかった。表彰式でIOCのブランデージ会長に金メダルを掛けてもらった時はジーンとしましたよ」
幸先よく軽量級で金メダルを獲得した日本は中量級、重量級で日の丸を揚げたが、最後の無差別級で明大の先輩、神永昭夫(故人)がヘーシンク(オランダ)に完敗。柔道界には一気に敗北感が広がった。
明大での祝勝会もなかった。「柔道は無差別で勝ってこそ。軽量級は前座だ!」。先輩からそんなきつい一言を浴びせられても、中谷さんはあえて反論しなかった。
「当時はみんなが柔道イコール無差別と思っていたので腹も立ちませんでした。僕らの時代は金メダルを獲るのが当たり前という風潮がありましたが、今は外国の選手も強いですからね。今の選手は変な重圧を感じる必要はないし、色にかかわらずとにかく一つでも多くメダルを獲ってほしい。2年後は79歳ですけど、僕も会場に行って応援しますよ」
昨年に体調を崩して胃の一部摘出手術を受けたとはいえ、まだまだ元気いっぱい。思い出の日本武道館に再び日の丸が揚がる瞬間を、中谷さんは一日千秋の思いで待ち続けている。
▽64年東京五輪柔道軽量級VTR 64年10月21日のスポニチは「エイッ!とどめの大内刈り 中谷、先陣を飾る」の見出しで中谷さんの快挙を伝えている。東京五輪の柔道競技はまず8組に分かれた予選リーグで3選手の総当たりを行い、各組1位が決勝トーナメントに進出する形で行われた。第2組の中谷さんはタイ選手に1分24秒、横四方固め、英国選手に1分37秒、崩れ上四方固めでともに一本勝ち。準々決勝でもマルヤマ(米国)をわずか24秒で出足払いで仕留めた。準決勝の相手、ステパノフは長い手足を利用した帯取り返しを武器に、開始直後から積極的に攻めてきた。中谷さんも体落としや内股で反撃。小外刈りで先に技ありを奪う。そして4分25秒、焦ったステパノフが強引に攻めてきたところを得意の左大外刈りで仕留め、見事に決勝進出を決めた。決勝のヘンニ戦は1分25秒。5試合オール一本、全て合わせても9分余りという圧勝だった。
≪「定期的にクリーニング」メダル当時の輝き≫歴史的な金メダルは今、広島市内にある中谷さんの自宅で大切に保管されている。「普段は1年に1回くらいしか見ることがないんですよ」と言いながら黒塗りの箱を開けると、中から黄金色の宝物を取り出し、見せてくれた。50年以上の歳月が流れたというのにメダルの輝きは一向に失われていない。「定期的にクリーニングに出している」というリボンも新品に近い状態で、中谷さんの偉業を今に伝えている。
≪全4階級も…無差別だけ金逃す≫当時の階級は軽量級(68キロ以下)、中量級(80キロ以下)、重量級(80キロ超)、無差別の4階級で、日本は中谷さんに続いて中量級で岡野功、重量級で猪熊功が金メダルを獲得した。無差別は1メートル79、102キロの神永に対し、ヘーシンクは1メートル98、120キロ。しかも神永は直前に左膝じん帯断裂の重傷を負っていた。それでも必死に攻めたが、8分すぎに体落としをかけたところを逆につぶされ、けさ固めで屈辱の一本負けを喫した。
◆中谷 雄英(なかたに・たけひで)1941年(昭16)7月9日生まれ、広島市出身の77歳。12歳から柔道を始める。広陵高では「広島の姿三四郎」と注目され、明大進学後は同期の坂口征二らとともに黄金時代を支えた。64年東京の軽量級で日本柔道界初の五輪金メダルを獲得。引退後は西ドイツのナショナルコーチに就任し、72年のミュンヘン五輪に出場。現在は広島県柔道連盟会長。段位は九段で赤帯。
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