輪島さんを一度だけ怒らせた過去 強引な自己主張うれしかった

[ 2018年10月10日 09:20 ]

第54代横綱・輪島さん死去

87年、ア・シークを腕固めに決めて大見えを切る輪島
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 【元本紙担当記者が語る名横綱・輪島の素顔】 2010年8月に掲載した本紙の連載「我が道」取材を通じて、一度だけ輪島さんを怒らせたことがあった。優勝した場所の成績を間違って記憶していたのに、自分が訂正を促しても納得しない。相撲協会の公式記録を引っ張り出して食い下がると、「俺の成績だよ。俺が言っているのだから間違いはない!」とまくしたてられた。土俵人生よりその後のてん末や数々のトラブルが際だってしまったが、強引なまでの自己主張に横綱としての矜持(きょうじ)を垣間見て、逆にうれしくなった。

 離婚の話や年寄株担保の問題も突っ込んで聞いた。嫌な過去は思い出したくなかったはずだが、悪口や愚痴は一切言わなかった。妹に任せたちゃんこ店の経営が悪化し、年寄株を担保にした件でも「妹は悪くない。全て自分の責任」と言い切った。「辛子」明太子を「幸子」明太子と読んだ逸話などの真偽も、後援会長が肯定する傍らで輪島さんは「そうなんだよね〜。弱ったな〜」と笑うだけ。相撲界で頂点を究めた男とはかけ離れたおちゃめな一面が周囲の共感を誘い、数々の窮地を切り抜ける「武器」になった。

 言葉を発せなくなってからは、一度もお会いすることができなかった。2年前の高校相撲金沢大会。同じ会場に居合わせながら、姿を見つけることができなかったのが悔やまれる。自宅の棚には、「我が道」のインタビューを記録したボイスレコーダーがある。「肉声」は健在だが、再生ボタンを押すことでしか輪島さんに会えなくなったのは、とても寂しい。(スポーツ部専門委員・黒田健司郎)

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2018年10月10日のニュース