マラソン界にも「アムラー」!?世界新樹立で「厚底シューズ論争」の可能性

[ 2018年9月22日 10:30 ]

ベルリンマラソンで世界新記録を樹立したキプチョゲ(AP)
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 平成の歌姫・安室奈美恵さんが16日に引退した。90年代は安室さんのファッションを真似た「アムラー」たちがマイクロミニを履き、足下はいつも厚底ブーツでキメていた。

 陸上長距離界も厚底ブームだ。かつては薄底で軽量というのが定石だったが、ナイキが「ヴェイパーフライ4%」という厚底ランニングシューズを市場に送り出し、一石を投じた。

 安室さんの引退と同じ、16日には高速レースとして知られるベルリン・マラソンでキプチョゲ(33=ケニア)が世界記録を1分以上更新する2時間1分39秒をマークした。そのとき彼の足を支えていたのが厚底のヴェイパーフライだった。

 キプチョゲは非公式ながら2時間0分台で42・195キロを走ったこともある。人類が前人未踏の2時間1分台の世界に突入。2時間切りも見えてきたことで“厚底論争”が起こる可能性もあるのでは…。

 ナイキは「超軽量で柔らかく、最大85%のエネルギーリターンを実現するナイキズームXフォームと硬さを加えることで推進力を感じさせるフルレングスの曲線的なカーボンファイバープレートを活用しており、システムとして機能することで、ナイキの当時の最速レーシングシューズと比較してランニングエコノミーを平均で4%高めています」としている。つまりは、ヴェイパーフライは厚底だけど軽量、しかもソールの反発力は高く、長距離を走った後の疲労も軽減されるということらしい。

 日本人選手でも愛用者は増えている。マラソン日本記録保持者の設楽悠太はナイキの厚底で記録を打ち立てた。設楽は最初に厚底を見たときに「本当にこれで走れるの?」と疑問に思ったというが、「今ではなくてはならないシューズ」と話していた。

 多くの選手は「(厚底だから)履いただけで前に進む感覚がある」と感想を口にする。一方で「選手の走り方のクセによっては故障につながるもろ刃の剣」という評価もあるので、履いた人のタイムが必ず上がるとは言い切れない。大学陸上界にも浸透し、今年の箱根駅伝で往路優勝した東洋大では多くの選手がナイキのシューズを履いて好結果を出した。ネットでは定価を超える価格で取引されるなど、ランナーの間ではまさに“スーパーシューズ”として認知されている。

 一方であまりにも好記録が連発するため「ドーピングシューズ」なのではないかという意見もある。スポーツ界で記憶に新しいのは、競泳のレーザー・レーサーから始まった「高速水着時代」だ。北京五輪ではほとんどの選手が着用し、世界記録をどんどん塗り替えた。こちらの場合も、必ずしも高速水着がすべての選手に恩恵をもたらすわけではなかったが、10年に着用が禁止されるまで競泳界に衝撃を与えたのは事実だ。

 国際陸上競技連盟(IAAF)では「使用者に不正な利益を与えるようないかなる技術的結合も含め、競技者に不正な付加的助力を与えるものではあってはならない」としている。今後、キプチョゲの記録を契機に「厚底シューズ論争」が起こることも予想されるが、ヴェイパーフライの成功で競泳のレーザー・レーサーと同じく各社のシューズ開発競争が熱を帯びてきたことは事実。選手の能力とは別の次元で競技力が向上していくという点に若干の違和感はあるが「アムラー」のように、東京五輪では選手たちがキプチョゲよろしく厚底シューズをキメてくるのだろうか。足下を巡る戦いも間違いなく熱を帯びている。(河西 崇)

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