酷暑の東京五輪。完走率60%が示すマラソンの過酷さ

[ 2018年8月29日 08:30 ]

アジア大会男子マラソンで、バッグの中に入っている保冷剤で体を冷やす井上大仁(左)。右は園田隼
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 【藤山健二の独立独歩】ジャカルタで開催されているアジア大会もいよいよ終盤戦。各競技で連日、熱戦が繰り広げられている。4年に一度開催されるアジア大会をどう捉えるかは選手次第。男女のマラソン陣について言えば、今回の最大の目的は勝ち負けよりも、実際に暑さを体験することだったはずだ。

 20年東京五輪のマラソンはご存じの通り、酷暑の影響が心配されている。だが、猛烈な暑さが身体にどんなダメージを与えるかは実際に体験してみなければ分からない。給水の仕方や回数、体のどこにどの程度水を掛ければ冷えるのか、ユニホームやシューズは何をどうすれば快適に走ることができるのか。暑さの中でのレース運びに加え、これらの貴重なデータを実戦で手にした井上大仁(MHPS)や野上恵子(十八銀行)にとっては、まさに収穫大だったに違いない。

 今回改めて確認できたのは、酷暑の中でのレースはやはりスローペースになるということだ。アジア大会と五輪ではレベルが違うので優勝タイム自体は参考にならないが、少なくとも日本選手の持ちタイムでも十分競り合える程度まで遅くなることは確認できた。実際、91年に東京で行われた世界陸上での優勝タイムは男子が2時間14分57秒、女子は2時間29分53秒だったから、この程度のタイムなら今の日本勢でも十分手が届く。

 世界陸上の時は実際に現場で取材した。9月1日に行われた男子のスタートは午前6時。それでも気温は26度で湿度は73%。ゴール時には軽く30度を超えていた。レースはスローペースで始まったが、途中で棄権者が続出した。日本のエース中山竹通(当時ダイエー)も32キロ手前でリタイア。88年ソウル五輪金メダリストのボルディン(イタリア)も早々に脱落する壮絶なレースとなり、最後は38・4キロの市ヶ谷駅前の上り坂で谷口浩美(当時旭化成)がスパートし、日本人初の金メダルを獲得した。参加60人中24人が途中棄権し、完走したのはわずか36人。完走率は60%。同8月25日に行われた女子も参加38人中14人が棄権し、完走率はやはり63%。いかに過酷なレースだったかがよく分かる。

 2年後のスタート時間は午前7時。6時スタートでも6割しか完走できなかったことを考えれば、今回の東京五輪がどれだけ過酷かは言うまでもない。レベルが低いアジア大会にあえて挑戦した日本選手たちが今回の経験をどう生かすか、しっかりと見極めたい。(編集委員)

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2018年8月29日のニュース