NBAに挑戦している中国選手 長い名前に隠された“母国”の複雑な風景

[ 2018年7月11日 08:00 ]

サマーリーグでウォリアーズの一員としてプレーしている中国代表の阿不都沙拉木・阿不都熱西提(AP)
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 【高柳昌弥のスポーツ・イン・USA】欧米式にファーストネームの次にファミリー(ラスト)ネームを表記すると「Abudushalamu・Abudurexiti」となる。カタカナ表記だと「アバドゥサラーム・アバドゥレキシーティ」だと思うが、後者を「アバドゥラシード」のように発音する表記もあるので、私には“真実”がよくわからない。もっとも彼の国籍は中国なのでまず前後を入れ替えないといけない。しかも通常、中国の方の名前は簡体字で表記。するとこの名前を日本人同様に姓→名の順に記すと「阿不都●(●は熱の簡体字)西提・阿不都沙拉木」になる。

 これが現在、NBAのサマーリーグにウォリアーズの一員として参加している中国代表のフォワードの名前。漢字で「阿不都熱西提 阿不都沙拉木」となる彼のプレー内容を読者の方にお届けするのは、本人には申し訳ないが活字媒体のメディアとしてはとても骨が折れる。なにしろ姓名全部で計12文字。新聞は現在1行10字なので、名前を全部書いてしまうと2行目に突入する。

 ただこの名前のおかげで、普段はあまり接することがない彼の“母国”の複雑な事情が見えてくる。

 「阿不都熱西提 阿不都沙拉木」の出身は中国西部の新疆ウイグル自治区。その多くが砂漠ではあるが、面積は日本の4・5倍。パキスタンとの国境近くには世界最高峰のエベレストに次ぐ8611メートルのK2がそびえたっている。

 国の歴史を語るとたぶん夜を徹して書き続けなければいけないだろう。1955年に中国の自治区となったが、清朝以前はテュルク(トルコ人)の土地」を意味するトルキスタン。1933年と44年には独立を宣言し、90年代に入っても独立運動が活発化したイスラム色の濃い中央アジアの文化圏だ。省都は「烏魯木斉」という字で表記される「ウルムチ」で、漢族の大量入植を受けてウイグル族の反発と抵抗は根強く残っているという。各種報道をチェックしてみると中国政府は新疆ウイグル自治区でムスリム系の名前の使用を禁止したとあるが、ウォリアーズでプレーしている「Abudushalamu・Abudurexiti」という名前を見る限り、全員がそれに該当するものではないのかもしれない。

 「阿不都熱西提 阿不都沙拉木」が所属する新疆フライング・タイガースは男子バスケの中国リーグ(CBA)で昨年、チャンピオンとなった。その実績を評価されて中国代表入り。「阿不都熱西提 阿不都沙拉木」は現在進行中のW杯アジア予選でもチームの中核的プレーヤーとして活躍している。

 さて名前が長いので実は途中から筆者の「高柳」に相当する「阿不都熱西提(アバドゥレキシーティ)」だけで表記しようと思ったのだが、ウイグル族の名前は我々が「姓」だと思っている部分が実は父親の「名」なのだと言う。なんとなくサッカーのW杯に初出場したアイスランドの人たちの名前にも似ていて、そこはファミリーネームではない可能性がある。

 すると彼の真の名前は「阿不都沙拉木(アバドゥルサラーム)」だけ?さてNBA入りを見事に果たした場合、あるいはW杯で活躍して日本のメディアで書かざるをえなくなった場合、彼の「日本名」はどうなるのか?

 サマーリーグでは現在、ネッツで日本の渡辺雄太(23)がプレー。しかし私にはアジアからやってきたもう1人の挑戦者も気になっている。

 誇り高き民族名を持つ中国代表のフォワード。さてこのコラム、ここまで何度も彼の名前を書いてきましたが、みなさん覚えてくれましたか?サマーリーグを中継していた米国のアナウンサーは「アバ…」といったあと「☆×◆△◎★」噛んでしまいましたが(汗)。 

 ◆高柳 昌弥(たかやなぎ・まさや)1958年、北九州市出身。上智大卒。ゴルフ、プロ野球、五輪、NFL、NBAなどを担当。NFLスーパーボウルや、マイケル・ジョーダン全盛時のNBAファイナルなどを取材。50歳以上のシニア・バスケの全国大会には7年連続で出場。今年の東京マラソンは4時間39分で完走。

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