15年間守り続けたメッセージ…旭大星が披露宴で流した幸せな涙

[ 2018年6月20日 09:30 ]

結婚披露宴で並ぶ(左から)旭大星の父・大串浩さん、旭大星、芳恵夫人
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 「表情が硬い?じゃあニコって(笑って)いいですか?」

 新郎・旭大星託也(28=友綱部屋)は、緊張を隠すように扉の前で笑った。一歩後ろには、色打掛に身を包んだ新婦・芳恵夫人(27)。新入幕の大相撲夏場所で敢闘賞を受賞したホープが今月9日、都内のホテルで結婚披露宴を迎えた。

 本名・大串拓也。出席した幕内・阿炎らに「タクヤさん、写真一緒に撮りましょう!」とせがまれるなど、新郎新婦は引っ張りだこだった。故郷の北海道旭川市からは約40人が祝福。「夏場所で勝ち越して迎えられたし、遠くからたくさん来てもらって。ありがたいですよね」。披露宴前に、そう感謝した。

 夏場所前にも稽古をつけてもらった横綱・白鵬からは訓示を受けた。純白のドレスを着た芳恵夫人と、ウェディングケーキに入刀した。代名詞の笑顔を絶やさず、宴は穏やかに進んでいた。

 雰囲気が一変したのは最終盤だった。父・浩さん(53)からサプライズが告げられた。旭大星の目から、涙が止めどなくあふれ出す。読まれたのは、彼が13歳のときに亡くなった母・真由美さん(享年36)からの“手紙”だった。



 拓也、結婚おめでとう。

 拓也のお嫁さん、結婚おめでとう。

 この手紙が読まれるときは、お母さんは天国に行っていることと思います。おめでたいこの場所で、祝うことができないのは、すごく、すごく残念です。

 お母さんは最近体調も悪く、だんだん病気が進行しているのもわかり、あんまり長くないかなと思いペンを持ちました。

 拓也は、小さいとき空手を始めて、いやいやお父さんから連れて行かれ泣いていたのを覚えています。でも、お父さんは拓也が男として強くなってほしいから武道を続けてほしい。ずっと言っていたよ。

 それから柔道を始めていろんな大会に出て、結構続いたね。今も、柔道頑張っているのかな?

 昔から頑張り屋さんで、今考えたら小さいころから楽しい思い出がたくさん残っています。もっともっと、たくさん楽しい思い出をつくりたかったけど、お迎えがすぐそこまで来ています。まだ、まだ死にたくないし、みんなと一緒に生活をしたかった。

 拓也のお嫁さんへ。

 拓也はわがままで、甘えん坊だけど、心はすごくやさしい子です。これから本当によろしくお願いします。

 いろいろ苦しいこと、たくさんあると思うけど2人で力を合わせ、協力して幸せになってください。

 成長を見れないのが残念だけど、天国からずっと、ずーっと見守っています。

 本当におめでとう。

 大好きな、大好きな拓也へ。

 ママ 大串真由美

 平成14年11月4日 月曜日

(一部抜粋)



 浩さんが生前の真由美さんの言葉を記録し、15年以上大切に守ってきたメッセージ。結びの日付の翌年、真由美さんは天国へ旅立った。旭大星は、芳恵夫人からハンカチを借りて、何度も顔を覆った。

 「聞いていなかった。泣くのをこらえても泣いたのは人生で初めて」。会場ではすすり泣きが至る所から聞こえ、新郎新婦から最も遠いテーブルにいた白鵬も起立して耳を傾けた。

 柔道で名をはせた拓也少年は相撲の道に進み、幕内へと歩みを進めた。友綱親方(43=元関脇・旭天鵬)が「逃げたこともありましたが」とあいさつで振り返ったように、序二段時には旭川へ帰ったこともある。だが、真由美さんの顔が浮かび、2週間で思い直した。旭大星のしこ名には「星になった母」への思いが込められている。

 芳恵夫人には“手紙”の内容を知らせていたと浩さんは明かす。芳恵さんもまた、幼いころに母親を亡くしていた。「出会って十両に、結婚して幕内になれた」。浩さんは感謝を述べ、信頼を口にした。



 この披露宴のエピソードには「いい話」、「感動的」という感想が届いた。けれども、当事者目線を加味すれば「幸せ」という言葉がふさわしいのではないだろうか。支えてくれるいろいろな人からの愛を、大切な場所で感じられた旭大星は、本当に幸せだと思う。

 「泣く予定じゃなかったんですけど、泣き虫のところがあって。申し訳ありませんでした」。

 謝ることなんて一つもない。旭大星と芳恵さんだからこそ知っている家族愛がきっとある。2人の幸せな門出に立ち会えて、私もまた幸せだった。ありがとうございました。(斎藤 純)

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2018年6月20日のニュース