NFLもNBAも拒絶 トランプ大統領のスポーツ界に対する強硬姿勢続く どうするNHL?

[ 2018年6月12日 09:00 ]

スポーツ界との関係がぎくしゃくしているトランプ大統領(AP)
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 【高柳昌弥のスポーツ・イン・USA】北米4大プロ・スポーツ界では優勝チームが次のシーズンの途中でホワイトハウスを表敬訪問するのが慣例になっていた。そしてこの恒例行事をまさか「過去形」で書くとは思わなかった。

 トランプ米大統領はNFLスーパーボウルを制したイーグルス、そしてNBAファイナルで連覇を達成したウォリアーズへのホワイトハウス招待を拒絶。イーグルスに対しては「国歌吹奏の際に選手は誇り高く起立し、偉大な男女の兵士と国民に敬意を表すべきだと考える大統領がここにいるが、スーパーボウルの優勝チームの中には同意しない連中がいるようだ」とその理由を説明。NBAファイナルの第4戦(8日)の前には「自分はレブロン・ジェームズ(キャバリアーズ)もステフィン・カリー(ウォリアーズ)も招待しなかった。どちらのチームも(ホワイトハウスには)招かない」と個人名を挙げて、早々と門戸を閉ざした。

 警官によるアフリカ系アメリカンに対する不当な扱いが発端となっているこの問題。NFL元49ersのQBコリン・キャパニック(30)らが始めた国歌吹奏の際における“ニーダウン”は確かに星条旗を手にしてフィールドに立っている兵士に対して非礼なふるまいのように映るが、その情景だけを切り取って不快感をぶちまけるのはおよそ一国のリーダーの態度とは思えない。NBAファイナルで2年連続6回目の優勝を飾ったウォリアーズと2016年のファイナルを制したキャバリアーズは、ジェームズやカリーといたチームのボイスリーダーが招待される前にホワイトハウスには行かない意思を示しており、今年に限って言えば大統領が先手を打って“不満分子”を近づけないようにした…としか見えない。

 イーグルスの場合も選手の多数派は「反トランプ派」だったようでそれでカチンと来たのかもしれない。とにかくこれまで縁があった米国の主要プロスポーツ界とホワイトハウスの間には目に見えぬ厚い壁が出来上がってしまった。

 NBAファイナルでウォリアーズがキャバリアーズを4戦全勝のスイープで退けて連覇を達成する前日(7日)には、アイスホッケーのNHLスタンレー杯決勝でキャピタルズがゴールデンナイツを下して初優勝。トランプ大統領は「彼らを(ホワイトハウスに)招待するのは名誉なことだ」と違った対応を見せた。なにしろキャピタルズの地元はホワイトハウスのある米国の首都ワシントンDC。この町には北米4大プロ・スポーツのチームがすべてそろっているが、優勝したのは1992年のNFLスーパーボウルを制したレッドスキンズ以来、26年ぶりとあって素直に喜んだのだと思う。

 しかしながら大統領はキャピタルズのことをどこまで知っているのだろうか?もちろん抗議行動やツイッターなどのソーシャルネットワーク上での批判はあまり表面化しなかった。その背景にはNFLとNBAと比べると圧倒的にアフリカ系アメリカンが少なく、欧州出身者が多いというチーム構成上の違いがある。キャピタルズの全27選手中、米国出身者は7人だけ。プレーオフ全体のMVPとなったアレックス・オベチキン(32)はロシア出身の選手で、スウェーデン、チェコなど欧州勢は12人を数えている。

 ただしこのチームにおける”最大勢力”はどこなのか?と言うと米国ではなく8人が所属しているカナダだ。カナダ東部のシャルルボワでこのほど主要7カ国首脳会議(G7サミット)が開催されたが閉幕後にひともんちゃく。「カナダ人は礼儀正しく合理的だが、好き勝手にされるがままにはならない」と議長国を率いるトルドー首相が米国の対応を批判すると、トランプ大統領は「彼は不誠実で能力がない」と反撃して合意文書を承認しないように代表団に指示してしまった。

 ではこの状況下でキャピタルズのカナダ勢はホワイトハウスに足を運べるのか?母国の指導者を批判する大統領と握手が交わせるのか?いやはや、実に行きづらい環境が出来上がってしまった。

 米国勢の対応も微妙だ。7人の選手の出身州を列挙するとミネソタが3人で、ワシントン、マサチューセッツ、カリフォルニア、アラスカが各1人。このうち、前回の大統領選挙でトランプ大統領の共和党が勝ったのは選挙人が3人しかいないアラスカ州だけだ。選挙人の合計数だと3―88。ホワイトハウスに赴くことは、選挙結果から判断すると、州全体の総意に反することになってしまう。

 気にしないのであれば結構だし、行くか行かないのかを決めるのは選手の自由だ。しかし数少ないカナダ国籍の黒人選手、ディバンテ・スミスペリー(25)は「ホワイトハウスには招待されても行かない。彼が口にしている言葉は人種や性の差別主義者そのものを表しているから」と断固拒否。招待しても断られるパターンはさらに広がっていく様相を呈している。

 北米4大プロ・スポーツ界では優勝チームが次のシーズンの途中でホワイトハウスを表敬訪問するのが慣例になっていた…。さて、いつまで過去形で書き続けるのか?米朝首脳会談がひと段落したら、そろそろ“タイムアウト”を取って今後の作戦を練るときだと思う。

 ◆高柳 昌弥(たかやなぎ・まさや)1958年、北九州市出身。上智大卒。ゴルフ、プロ野球、五輪、NFL、NBAなどを担当。NFLスーパーボウルや、マイケル・ジョーダン全盛時のNBAファイナルなどを取材。50歳以上のシニア・バスケの全国大会には7年連続で出場。今年の東京マラソンは4時間39分で完走。

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