【日大・宮川選手の陳述書全文】「1プレー目からQBを潰せ」追い詰められて苦悩
陳述書
1 はじめに
平成30年5月6日に調布市のアミノバイタルフィールドで開催された日本大学アメリカンフットボール部(以下「日大アメフト部」といいます。)と関西学院大学アメリカンフットボール部(以下「関学アメフト部」といいます。)との定期戦において、私が関学アメフト部のクォーターバックの選手に対してタックルをして怪我をさせてしまった件(以下「本件」といいます。)について、述べさせていただきます。
最初に、本件で怪我をさせてしまった関学アメフト部のクォーターバックの選手及びそのご家族、関学アメフト部及び関西学院大学関係者の皆様並びに日大アメフト部のチームメイトに対し、この度のことでご迷惑をおかけしてしまったことを深くお詫び申し上げます。
ただ、本件は、私の独断で行ったことではありません。以下に、本件の経緯を詳しく述べることにします。
2 5月3日
今年度の試合は、本件までに、4月22日、同月29日の2回行われています。そのいずれについても、私はスターティングメンバ―で出場しました。
5月3日の実戦形式の練習でプレーが悪かったということでコーチから練習を外されました。これまで同じようなことはありませんでしたが、このころは、監督、コーチから「やる気が足りない。」という指摘を受けるようになっていたので、このプレーをきっかけに外されたのだと思います。
その後全体のハドルの中で監督から、「宮川なんかはやる気があるのか無いのかわからないので、そういう奴は試合に出さない。辞めていい。井上コーチからは「お前が変わらない限り、練習にも試合にも出さない。」と言われました。
3 5月4日
練習前に監督から「日本代表にいっちゃダメだよ。」と、当時選抜されていた今年6月に中国で開催される第3回アメリカンフットボール大学世界選手権大会の日本代表を辞退するように言われました。監督に理由を確認することはとてもできず、「わかりました。」と答えました。
この日は今年度初めて全体で行うディフェンスインディーの日でした。未経験の1年生がいたので、副キャプテンがタックルをして私が受けるかたちでメニューをやってみせるために私がダミーを持ちました。すると、コーチから「なぜ最初にダミーを持つんだ。」と言われてグラウンド10周走らされました。
4 5月5日
この日も実戦練習は外されました。
練習後、井上コーチから「監督に、お前をどうしたら試合に出せるか聞いたら、相手のQBを1プレー目で潰せば出してやると言われた。『QBと潰しに行くんで僕を使ってください。』と監督に言いに行け。」と言われました。続けて井上コーチから「相手のQBと知り合いなのか。」、「関学との定期戦が無くなってもいいだろう。」、「これは本当にやらなくてはいけないぞ。」と念を押され、髪型を坊主にしてこいと指示されました。ポジションの先輩■■から、井上コーチに「宮川に『アラインはどこでもいいから、1プレー目からQBを潰せ』と言っとけ。」と言われた旨を告げられました。
相手を潰すくらいの強い気持ちでやってこいという意味ではなく、本当にやらなくてはいけないのだと追い詰められて悩みました。
5 5月6日(本件当日)
(1)いろいろ悩みましたが、これからの大学でのフットボールにおいてここでやらなければ後がないと思って試合会場に向かいました。
試合のメンバー表に私の名前はありませんでした。その後の試合前のポジション練習時に井上コーチに確認したところ、「今行ってこい」と言われたので、私は、監督に対して直接「相手のQBを潰しに行くんで使ってください。」と伝えました。
監督からは「やらなきゃ意味ないよ」と言われました。
戻った私は、井上コーチに、監督と話をしたこと、監督から「やらなきゃ意味ないよ」と言われたことを伝え、さらに、井上コーチに対して「リード(DLの本来のプレーのこと)をしないでQBに突っ込みますよ。」と確認しました。井上コーチからは「思い切りいってこい。」と言われました。このことは、同じポジションの人間は聞いていたと思います。
その後、試合前の整列の時に、井上コーチが近づいてきて「できませんでしたじゃ、すまされないぞ。わかってるな。」と念を押されました。
(2)本件直後は、何も考えられない状態でした。そのため相手のQBが怪我をして代わったことにも気づいていませんでした。普段の試合で、こんなことはあり得ません。
本件で問題になっている1プレー目の反則行為の後、2プレー目が終わり、コーチに呼ばれてサイドラインの戻った時に、井上コーチから「キャリア(ボールを持っている選手)に行け」と言われましたが、散々「QBを潰せ」と指示をされていたので、井上コーチの発言の意味が理解できず、再びパスをしてボールを持っていない状態の相手チームのQBにタックルをして倒し、2回目の反則をとられました。
3回目の反則は、相手に引っ張られて尻餅をついた後、相手のオフェンスの方に行こうとした際に、正面から向かってきた相手選手を突いた行為に対して取られました。この反則は、普段から「相手が掴んできてもおとなしすぎる」などとコーチから指摘されていましたし、「やる気がない」として外されていたので、むかってきた相手選手にやられっぱなしにできないと思って、意識的にいった行為でした。
退場になりテントに戻った後、ことの重大さに気づき泣いていたところを井上コーチに見られていました。
(3)試合後、スタメンと4年生が集められたハドルの時に、監督から「こいつのは自分がやらせた。こいつが成長してくれるんならそれでいい。相手のことを考える必要はない。」という話がありました。
その後、着替えて全員が集まるハドルでも、監督から「周りに聞かれたら、俺がやらせたんだと言え。」という話がありました。
井上コーチからは、私が退場になった後、■■というDLの上級生リーダーが、私に相手QBに怪我させる役割をさせたことを済まなく思って、「自分にもやらせてほしい」と申し出たという話を紹介して、「■■は自分にもやらせてくれと言ったぞ。お前にそれが言えるのか。」「お前のそういうところが足りないと言ってるんだ。」と言われ、退場後に泣いていたことについても「優しすぎるところがダメなんだ。相手に悪いと思ったんやろ。」と責められました。さらに気持ちを追い詰められました。
6 5月8日
(1)井上コーチから午後5時ころにグランドに呼び出されました。私がグランドのクラブハウスで待っていると先輩が来て、私の様子を心配してくれました。先輩に「もうアメフトやりたくない。」と伝えると、先輩も「そうだよな」と応じてくれました。その後、学生のスタッフが来て、監督が待っているコーチ部屋に行くように言われました。
(2)当初、コーチ部屋には監督一人でした。
私と監督が話し始めると、遅れて井上コーチと鈴木コーチが来て監督との話しを聞いていました。
私が監督に対し、「もうフットボールをやりたくない。」と言うと、監督は、「お前の罰はあの時、罰退になってるから、お前の処罰は終わってるんだからいい。」「世間は監督を叩きたいだけで、お前じゃない。気にするな。」と言われました。
その後、監督は練習に出て行ったので、井上コーチと鈴木コーチの3人で話すようになりました。当然、二人のコーチからは事実関係の確認は無く、「お前が辞める必要はないだろう」「むこうとの試合がなくなろうと別にいいだろう。」というような話をして、退部を申し出た私を引き留めようとしてきました。しかし、私としては、あんなプレーをしてアメフトを続けるというということはとても考えられませんでした。
結局、その日は、監督やコーチ、先輩たちと、7時間程度クラブハウス等で話をしました。
7 5月9日
森ヘッドコーチから三軒茶屋のキャンパスに呼び出されて、「やめるべきじゃない。フットボールで返していくしかない。」「監督が厳しく言ったことをそのままお前に伝えたコーチに責任がある。」と言われました。
8 その後
(1)5月11日、前日の謝罪文公表を受けて、こちらから井上コーチに連絡をして、本部にある監督の部屋で、監督と井上コーチ、私と両親で面会しました。
父から「個人的にでも相手方選手と選手に謝りに行きたい。」と申し入れたところ、監督から「今はやめてほしい」と言われました。
父から、「監督・コーチから選手に対して対戦校のQBに怪我を負わせろと指示を出し、選手はそれに従っただけ」である旨の公表を求め、そのメモを先方に渡しましたが、「公表できない」と拒否されました。
面会のあと、井上コーチから父に連絡があり、理由の説明もなく「関学アメフト部の監督に謝りに行く。」と言われました。父がアポイントを取って欲しい旨を求め、アポイントを取ろうとしたようですが、先方から断られたと連絡がありました。しかし、夜中に再度井上コーチから父に連絡があり、「謝りに行く、息子さんを行かせてください。」と言われて、関西学院大学に行くことになりました。
(2)5月12日、謝罪のために私と井上コーチと関西学院大学を訪れましたが、再度先方から面会を拒絶されたため、関学アメフト部の監督にお会いすることはできませんでした。
(3)5月14日、井上コーチから父に連絡があり「三軒茶屋のキャンパスに来てほしい。」と呼び出され、父と二人で訪問しました。■■■■■■。
その日は、その後、私と父が関東学生アメリカンフットボール連盟の規律委員会で聞き取り調査を受けました。
(4)5月16日、私は日本大学本部の体育局に、チームの幹部とともに呼ばれましたが、先方がどう出てくるかわからない不安が強く、体調もよくなかったため、私は行きませんでした。
(5)5月18日に、私と父で関学アメフト部クオーターバックの選手及びご両親を訪問し、直接謝罪の意を伝えました。
9 最後に
本件は、たとえ監督やコーチに指示されたとしても、私自身が「やらない」という判断をできずに、指示に従って反則行為をしてしまったことが原因であり、その結果、相手選手に卑劣な行為で怪我を負わせてしまったことについて、退場になった後から今まで、思い悩み、反省してきました。そして、事実を明らかにすることが、償いの第1歩だと決意して、この陳述書を書きました。
相手選手、そのご家族、関西学院大学アメリカンフットボール部はもちろん、私の行為によって大きなご迷惑をお掛けした関係者の皆様に、改めて深くお詫び申し上げます。
以上
※■は伏せられた部分
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