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「2連覇おめでとう」パレード〜目線の略奪王にオレはなる!(1)

羽生さんの目線、確かにいただきました(撮影・長久保 豊)
Photo By スポニチ

 【長久保豊の撮ってもいい?話】風が吹いてきた。それは10万8000人の熱気をかき混ぜるだけだったそれまでの風とは違った新しい風だった。パレードの隊列がやって来る。悲鳴のような歓声を巻き込みながら人の歩みより遅い速度でこちらにやって来る。新しい風は手を振る羽生結弦のブレザーのスソをはためかせ、彼の背後の緑の木々を揺らしている。彼を育てた仙台はなんて美しい街なのだ、そしてこの日を迎えることができたのは本当に奇跡なのだと思っていた。

 昨年11月、暗澹たる気持ちを抱えて新大阪に向かうのぞみ号に乗った。直前に会社で見た連続写真、ニュース映像が原因だった。長いことスポーツの現場で写真を撮っていれば選手たちの負傷場面に出くわすことがある。開幕絶望、今季絶望、選手生命の危機…。何度となく目撃、撮影した状況と比べても彼の転倒したシーンは最悪に近いものだった。先乗りしていた弊社のカメラマンによれば自分の足でリンクから出たという。それだけが救い、とは思えなかった。彼の性格からして、どんなに痛みが激しくても担架に乗せられてリンクから出るということはないのだ。負傷の程度もわからないまま一夜が明けた翌日のプレスルーム。仲間のカメラマンたちから状況を聞きしばらく話したが、「あの転倒はヤバイよ」と誰れかが言ったのを機に皆が口を閉ざした。

 「彼は何度でもカムバックする」「逆境は大好物」…。このコラムでも何度かファンたちを励ますような言葉を記した。今思い返せばあの言葉はともすればネガティブ思考に陥ってしまう自分に対してのものだったのかも知れない。それは平昌五輪が始まっても続いていて、仁川国際空港に降り立った彼を見て「あんなにやせちゃって」とか、氷上練習初日に見せたトリプルアクセルを見て「羽生選手の本来の3Aはあんなに前傾しない」とか。SPで首位に立っても「フリーの4分30秒は辛いだろう」とか。それでいてSEIMEIの最後にダッダーンと両手を広げステップに入ったときには「よし!」と編集局に響き渡る声を出して「もうこれウイニングランだから」と独り言を言ったり。その日は構成を任されていた写真集の50ページ分を一気にレイアウトしちゃったり。

 あっ、オレはニース落ちした彼のファンだったんだ。

 動き出したパレードはゆっくりと近づいて来て400ミリレンズの射程に入った。羽生選手と同じ車に乗った赤いベストのオフィシャルカメラマンがこちらを指差し何かを彼に伝えている。

 ファインダーの中の彼と目が合った。途端に彼の顔が17歳のころの彼に戻って思い切りの笑顔を見せている。そして思い切り手を振って何事か叫んでいる。

 「タナカさ〜ん」。

 私はきょうからタナカさん。それが何か?=次回に続く(写真部長)

 ◆長久保 豊(ながくぼ・ゆたか)1962年生まれ。ビッグコミック連載の「BLUE GIANT」が大のお気に入り。この主人公も仙台出身なんだよな。いい街だな。

[ 2018年4月24日 09:29 ]

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