船木和喜 試合を支配ー実力者を圧倒 羽生選手に強者の貫禄感じた

[ 2018年2月17日 10:00 ]

平昌冬季五輪   フィギュアスケート男子SP ( 2018年2月16日    韓国・江陵アイスアリーナ )

フィギュアスケート男子SPで演技をする羽生結弦
Photo By 代表撮影

 【メダリストは見た】スキージャンプ・船木和喜

 羽生選手、率直に言って凄かったです。同じ冬季競技とはいえ、フィギュアスケートの試合をじっくり観戦するのは初めてでした。一番最初の選手からずっと、見ましたよ。そして、羽生選手。難しいことをやっていることは分かるんですが、その難しさを感じさせないところが何より凄いと感じました。

 語弊があるかもしれないけど、他の選手は一生懸命頑張っている感じが伝わるのに、羽生選手はサラッとやってのけている感じでした。スピードもパワーもないと4回転ジャンプなんて跳べないはずだけど、しなやかな動きでそれを感じさせなかった。演技全体の滑らかさは、そういうところから生まれているのかなと思いました。

 ケガがあり、試合間隔が空いているとも聞いてました。僕自身は試合の緊張感をキープしていたいタイプでした。98年の長野五輪直前、他の代表選手は帰国して国内で調整を行いましたが、僕だけは欧州に残り、五輪種目ではないフライングの世界選手権に出場したんです。試合の緊張感を続けたまま、五輪に入っていきたかったんですよね。

 視覚や聴覚から入ってくる情報って、大きいと思うんです。スキージャンプは自分が飛んでいるときに誰の目線を気にすることもないし、歓声も聞こえない。それでも、試合には試合でしか味わえない緊張感があるんです。ましてフィギュアはコーチやジャッジ、ファンの姿が目に入ってくるし、歓声も聞こえる舞台。練習との違いは顕著だと思うんですが、羽生選手は久しぶりの試合で力を出し切りました。自分にフォーカスする精神的な強さを感じました。

 もう一つ、感心したのは試合をコントロールする能力、のようなものです。実力者が集まった最終グループ、最初の演技者である羽生選手が素晴らしいプログラムを披露したことによって、他の選手に圧力を与えましたよね?転倒する選手が続いたのは、そういう圧力を感じたからだと思います。実は、試合を制する近道の一つは、試合の流れを支配することだと思うんです。

 スキージャンプでは最も飛びそうな選手、つまり世界ランク1位の選手に合わせて助走距離を決めます。飛びすぎの危険を回避するのが理由ですが、これによって、下位の選手は助走スピードが不足し距離を伸ばせなくなる重圧を感じることになります。やっぱり試合を支配するのは、強者の存在感なんです。得点による羽生選手の存在感、似ている感じがしました。

 それにしても、スタンドの日の丸の数には驚きました。浅田真央選手や高橋大輔選手のようなスター選手が続々と登場し、注目され続けることによって、ファンの数が増え、目が肥えていったのが分かりますね。結果を残すことは当然ですが、競技の魅力をいかに浸透させていくかは、競技の発展につながると思うんです。近年、フィギュアは五輪シーズンじゃなくても話題になりますよね?スキージャンプの業界も、学ぶことが多い気がしました。

 ◆船木 和喜(ふなき・かずよし)1975年(昭50)4月27日、北海道余市町生まれの42歳。19歳の94年、W杯初出場初優勝。98年長野五輪個人ラージヒル金、団体金、個人ノーマルヒル銀。02年ソルトレークシティー五輪は出場もメダル獲得ならず。W杯個人通算15勝は日本人歴代2位。1メートル75。現在も現役でフィット所属。

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