美帆1500Mで銀!笑顔のち悔し涙「もっと輝く景色見たい」

[ 2018年2月13日 05:30 ]

平昌冬季五輪 スピードスケート女子1500メートル ( 2018年2月12日 )

女子1500メートル、目を潤ませながら手を振る高木美
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 元祖・天才中学生が快挙を成し遂げた。女子1500メートルで高木美帆(23=日体大助手)が1分54秒55をマークし銀メダルを獲得。スピードスケート女子個人の表彰台は98年長野五輪500メートル銅メダルの岡崎朋美以来、20年ぶりで、この競技における女子個人の最高成績となった。同じ種目では92年アルベールビル五輪銅メダルの橋本聖子以来、26年ぶりのメダル。10年バンクーバー五輪で史上最年少代表入りしたが14年ソチ五輪選考会は代表落ち。試練を乗り越え、殻を破った。

 大粒の涙は歓喜の味だけではなかった。今季出場したW杯で全勝した主戦場で、日本女子最高の輝きを射止め、高木はオランダ人コーチの胸元で号泣した。「メダルを獲ったことはうれしいけど、もっと輝く景色を見たいと思った」。10年バンクーバー五輪女子団体追い抜きで銀メダルだった先輩たちが、ウイニングランした8年前を思い浮かべ「実際なってみると悔しさもあるんだと。コンマ3秒速かったら」と悔しさいっぱいだった。

 最初のスタートはフライングだった。「ちょっと雑念も入ったので“あ、落ち着けってことだな”と、気持ちをリセットして挑めた」。5位だった3000メートルは先行した同走者に自分を見失ったが、これで冷静になれた。この日も相手が序盤を引っ張る展開。だが「自分のことだけ考えた」。この結果こそ普段通りの滑りだった。

 小学6年で出た1000メートルの試合。最終カーブで転倒したが、立って滑り出しゴールすると同走者はまだ後方にいた。中学では“オール5”の通知表もあるほど文武両道。スピードスケート史上最年少で五輪代表入りし、別次元を突き進んできたが、4年後に試練は訪れた。

 日体大1年で迎えたソチ五輪代表選考会。不振のため「出られないこともあるな」と腹をくくった大学の青柳徹監督だが、一方で「高木美帆だから何とかなるだろう」と信じた。だが、5位で代表落ち。周囲を「なんとかなる」と思わせ「なんとかしてきた」という高木美も人の子だった。初めて壁にぶち当たった。レース会場の地下室で落ち込んでいると、携帯電話に兄・大輔さんから着信があった。「準備も含めて頑張りきれたか?」。信頼を寄せる兄の言葉に「目標が定まってなかった」と泣き崩れた。

 明確ではなかった目標設定。それゆえの準備不足。父・愛徳(よしのり)さんが「私どもの前では泣いた記憶はない」と明かし、兄でさえ初めて聞いた泣き声。代表発表の翌日、青柳監督と長野から横浜の寮に帰る車中では会話がないほど、どん底まで落ちた。

 その経験があるから今がある。五輪に出た妹への嫉妬心を原動力にした姉・菜那は14年ソチで念願をかなえた。目標に向かい必死な姉に「そんなにガツガツしなくても」と思うこともあったが、「ソチの選考会が終わってみて気持ちの差が行動に表れるんだと強く思った」。姉を見て“心のスイッチ”が入った。だからこそ胸を張って言える。「どの大会より集中して仕上げてくる努力をしてきた」。4年前に頬を伝ったものは、殻を破るためになくてはならない涙だった。

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2018年2月13日のニュース