ジョーンズHC、シックス・ネーションズVへ「とにかく前進を」

[ 2018年2月1日 16:54 ]

3連覇の懸かるシックスネーションズに向けて、抱負などを語ったラグビーイングランド代表のエディー・ジョーンズ・ヘッドコーチ
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 ラグビー界で最も伝統のある国際大会にして、世界トップレベルの試合が毎年、毎試合のように繰り広げられる欧州6カ国対抗戦「シックス・ネーションズ」。イングランド、アイルランド、フランス、スコットランド、ウェールズ、イタリアの6カ国による総当たり戦が、今年も今月3日から3月第3週にかけて開催される。

 シックス・ネーションズを2016年、17年と連覇を果たしているのは、ラグビー発祥の国イングランドだ。そしてグランドスラム(全勝優勝)を果たした16年大会からそのイングランド代表を率いているのが、15年のラグビーワールドカップで日本代表を大躍進させたジョーンズ・ヘッドコーチ(HC)である。ワールドカップで優勝(07年大会。南アフリカ代表のチームアドバイザーとして)と準優勝(03年大会。オーストラリア代表HCとして)を経験し、17年には世界最優秀コーチに選出された世界的名将だ。

 シックス・ネーションズ全15試合を生中継するWOWOWは、ジョーンズHCにシックス・ネーションズの展望を中心に独占インタビューを敢行。今年のチームとしてのターゲットやライバルたちの分析、そして現在の日本代表などについても幅広く話を聞いた。

──今回のシックス・ネーションズは3連覇を目指す大会となります。

 「それより、私たちはとにかく前進していくことに集中しています。昨年11月のテストマッチを見てもアイルランド、ウェールズ、スコットランドは非常にいい結果を出しています。自分たちがどのように前進できるかに集中して一つ一つの課題をクリアしていくだけです」

──シックス・ネーションズとはどんな大会だと捉えていますか?

 「アイルランド、スコットランド、ウェールズとは国が隣り合わせになっているので、ライバル心がとても強いです。特にイングランドに対しての敵対心が強いですね。とても活気のある大会です。たくさんの観客がそれぞれの国を応援するためにスタジアムへ訪れる。それが熱狂を生み出すのです」

──イングランドの現時点の完成度は、100%まであとどれくらいですか?

 「スポーツの世界に完璧はないですね。大切なのはどの方向に進んでいるかです。前に向かって進化しているのか、それとも後退しているのか。現在私たちイングランドは前進し、正しい方向に向かっています。これからも今より優れたディフェンス、セットピース、デシジョンメーキング(プレー中の意思決定)をする必要があるなど課題は山積みですが、確実に正しい方向に進んでいます」

──2019年のラグビーワールドカップ日本大会をピークとすると、現在の位置は何%ぐらいでしょうか?

 「数字では言い表せませんが、正しい方向に向かっています。確実に前進しており、後退はしていません。実は今朝、朝食を摂りながら富士山を見ていたのですが、チームの成長は富士山を登るのと同じようなものだと思いました。登り始めは酸素も十分あり足元もなだらかなので、早く楽に登れます。しかしベースキャンプ1、ベースキャンプ2、ベースキャンプ3と登るにつれて空気は徐々に薄くなり、足元も安定しなくなり、疲れも出てきて少しずつ困難になっていきます。頂上までどのくらい時間がかかるのか天候によっても変わるので、これというはっきりした見通しは持てません。それと同じです。しかし私たちは確実に山を登っています」

──では、イングランドの結果は現状プラン通りですか?

 「プランはこれまで一度も立てていません。何故ならば天気と一緒で、コントロールできないことだからです。誰が何人負傷するのか、といったことはコントロールできないことですよね。唯一コントロールできるのは今日やることと明日やることだけです」

──強くなった今のイングランドですが、どこを一番大きく変えて成果を出したのでしょうか?

 「大きく分けて3つあります。1つ目はフィジカル。フィットネスのレベルが足りていませんでした。その面で良くはなっていますが、あと20%ほど足りていませんので、まだ強化する必要があります。2つ目はプレースタイルです。(世界ランキング1位の)ニュージーランドの真似ではなくセットピースに重点的に取り組む、ディフェンス重視のイングリッシュスタイルに変えました。3つ目は代表選手たちのマインドセット(考え方)を変えたことです。今、彼らはイングランド代表としてプレーをするだけでなく、イングランドのために勝ちたい。世界で一番のチームになりたいと思っています」

──HC就任以降のチームの通算成績は22勝1敗です。驚異的な好成績ですが、この結果をどう受け止めていますか?

 「全ての試合に勝つつもりでやっています。常に考えていることは『いかによくなるか』ということです。勝つのはもちろん嬉しいことですが、それよりも大切なのはいかに進歩していくかです。ワールドカップで勝つためには日々向上していかなくてはなりません。私に唯一できることは、常にチームとして前に進んで良くしていくことだけです」

──2018年のチームのテーマはありますか?

 「2016年は欧州制覇、2017年は基礎に徹することをテーマにしてきました。2018年のテーマは『ハンティング(狩り)』です。この言葉をそのままチームのテーマにしているわけではありませんが、意図としてはハンティングする、他の国を狩りしに行くという考え方ですね。最初のターゲットはイタリアです(2月4日)。彼らをハンティングする、つまり勝つためには彼らよりもフィジカル面でも優っていなくてはなりません。そして、メンタル面でももっとアグレッシブに、戦術面でももっと積極的でなくてはなりません。彼らが私たちを狩りに来るのではなく、私たちが彼らを狩りに行くのです」

──今大会、イングランド代表で期待している選手、また注目すべき選手はいますか?

 「良い選手は数多くいます。その中でも特に注目しているのはプロップ)のマコ・ブニポラです。彼は世界でも優秀なボールキャリアのひとりで、パスのスキルもあります。昨年11月のアルゼンチン戦では20回ものタックルを決めました。プロップでありながら様々なプレーをできる素晴らしい選手で、チームにとって必要不可欠な存在です」

──では今大会、警戒している国はありますか?

 「全試合、気を抜くことができません。その中でもアイルランドは世界ランキング3位ですし(イングランドは2位)フィジカル面でも非常にタフで、持っている能力を最大限に出してくるので気をつけなくてはなりません。(同5位の)スコットランドもどんどん強くなっているので侮れないですね」

──2019年のワールドカップで対戦が決まっているフランスは意識していますか?

 「シックス・ネーションズでのフランスとの対戦は、ボクシングで言えば試合本番ではなくお互いに手の内を見せないスパーリングみたいなものです。様子見ですね。ワールドカップは(プール戦が終われば)ノックアウト方式ですから、シックス・ネーションズでは互いにワールドカップでやってくるだろうと思わせたいことをやってくるでしょう。実際にどう攻めてくるかはワールドカップ本番までは分かりません」

──そのフランス代表と11月に23―23で引き分けた日本代表をどう見ましたか?

 「2つ思ったことがあります。1つはハリケーンズ(スーパーラグビー)から来たジョン・プラムツリー・ディフェンスコーチの指導によってディフェンスがすごく良くなったということです。彼が大きな変化をもたらしましたね。以前に比べてラインスピードも上がり、アグレッシブになっていて素晴らしいと思います。2つ目は、11月の試合でアタックの方法が変わったことです。それまでのキック主体の攻撃ではなく、ボールを保持する攻撃に変えました。その変化がメンタル面でも戦術面でも非常にいい結果をもたらしたのだと思います。チームとしてすごく良くなったと感じています」

──それでは最後に、シックス・ネーションズの意気込みをお願いします。

 「ヨーロッパの中で最も強力で、最も優れているチームになりたいですね。そうなるためには、まず初戦のイタリアに対してセットピースで圧倒し、タックルで圧倒することです。それができれば得点につながっていくでしょう。選手がパワフルで質の高いラグビーをすることを楽しみにしています」

 ジョーンズHCが語っていたように、アイルランドやスコットランドといったライバルが目覚ましい進化を遂げ、驚異的な勝率を誇るイングランドを脅かす存在になりつつある。低迷するフランスも新体制となり、2019年のワールドカップで対戦するイングランドを意識した戦いが見られることになるだろう。

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