進化する陸上男子短距離陣。これから大切なのは体の手入れと休養

[ 2017年9月28日 09:30 ]

9月9日の日本学生陸上競技対校選手権の100メートル決勝で、日本人初の9秒台となる9秒98をマークした桐生祥秀
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 【藤山健二の独立独歩】陸上男子100メートルでまた好記録が生まれた。日本人として初めて10秒の壁を破る9秒98を出した桐生祥秀(東洋大)に続き、山県亮太(セイコーホールディングス)が全日本実業団で10秒00をマーク。桐生は追い風1・8メートルだったが、山県は無風に近い同0・2メートルで出したので、実質ほぼ同等と言っていい。くしくも、個人種目での世界選手権出場を逃した2人の相次ぐ快記録だけに、心から拍手を送りたい。

 それにしても今年の男子短距離陣の躍進には目を見張るものがある。世界選手権に出場した3人もサニブラウン・ハキーム(東京陸協)が10秒05、多田修平(関学大)が10秒07、ケンブリッジ飛鳥(ナイキ)も10秒08といずれも今季に自己ベストを更新しており、もはや10秒0台は当たり前の記録になった。ちなみに日本の選手が電動計時で10秒2台から10秒1台までに擁した期間は5年1カ月、0台までは3年8カ月。そして97年7月に朝原宣治(当時大阪ガス)が初めて10秒08を出してから桐生が9秒98を出すまでには実に20年と2カ月もかかった。いかに10秒の壁が厚かったかが分かる。

 まだ10月には国体もあるので、さらに記録が更新される可能性もある。今の日本の短距離界は1人だけが突出しているわけではなく、大勢のランナーが互いに切磋琢磨している状態なので、いつどこで再び9秒台が出てもおかしくない。3年後の東京五輪での日本人ファイナリスト誕生も、間違いなく夢から現実に変化しつつある。

 夢を現実にするためにこれから大切なことは「故障をしないこと」に尽きる。世界を見渡しても9秒台で走れるのは黒人選手ばかりだ。日本人が9秒台で走るということはそれだけ筋肉に負担がかかっている訳で、これまで以上に体の手入れが重要になる。日々のケアやオフの徹底的なオーバーホールは欠かせない。互いにライバル意識が強いのでつい無理してでも走ってしまいがちだが、9秒台のスピードで故障をすれば長期離脱はまず避けられない。

 その意味では桐生や山県の記録がシーズン終盤の9月に出たのはよかった。これがもしシーズン初めだったら先に9秒台を出した桐生はもちろん、遅れを取った他の選手たちも無理しすぎて、結果的に故障を引き起こした可能性もある。これからオフシーズンに入るのでまずはしっかりと休養をとること。好事魔多しとも言う。すべてがうまく言っている今だからこそ、心身ともに焦らず慌てずじっくり取り組み、ぜひ来年は9秒98を超える走りを見せて欲しい。(編集委員)

 ◆藤山 健二(ふじやま・けんじ)1960年、埼玉県生まれ。早大卒。スポーツ記者歴34年。五輪取材は夏冬合わせて7度、世界陸上やゴルフのマスターズ、全英オープンなど、ほとんどの競技を網羅。ミステリー大好きで、趣味が高じて「富士山の身代金」(95年刊)など自分で執筆も。

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