【高野進氏の分析】桐生「完璧な状態」でなかったことで生まれた集中力&自然体

[ 2017年9月10日 10:20 ]

陸上・日本学生対校選手権第2日 ( 2017年9月10日    福井県営陸上競技場 )

日本人初の9秒台をマークした桐生の走り
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 全てが完璧にそろって出したというものではなかった。それでいて出すぞというテンションではなく、いい集中力で臨んでいたと思う。スタートの出方もハの字に刻むわけではなく、すーっとスピードに乗れた。風もあったが足もしっかりと前に出ていた。

 彼は全てのバランスがいい。走り方も癖がなく、お手本に近い。特にピッチの速さ、中盤までの鋭い加速力が持ち味だ。手足が連動した腰の入ったランニングが特長で、近頃はウエートトレーニングのレベルを上げていたというから、それが終盤の伸びにつながったのだろう。風のアシストがあればうまく走れるタイプなので、条件がそろえばさらなる記録の向上が望めるはずだ。

 足の不調もあったと聞く。完璧な状態ではなかったからこそ、逆に伸び伸び走っていた。これまでは記録にチャレンジする気持ちが強すぎて、足踏みしてしまっていたのではないか。本調子ではない中で多田選手に勝つための走り方、状態の良くない中でも力まない自分の走りをするという選択が良かった。

 大学4年間で期待され続け、集中力を保ち続けることも大変だったと思うが壁を破ったことで本来の精神状態になるはず。ただ、次の選手が9秒97を出す可能性もあり、安心はしていられない。

 桐生選手が9秒台を出したことで新たな時代に入ったことは間違いない。我々が9秒台の壁を厚くしてきてしまったが、短距離の歴史にとっては大きな一歩。足の速い子供たちがどんどんそこを目指していける。夢が膨らむし短距離の層も厚くなるだろう。

 9秒台を出した桐生選手の新たな目標は五輪のファイナリストだ。そのためには外国選手のようにピークを長く保つことができるようになる必要がある。それがうまくできるのはサニブラウンだ。彼と切磋琢磨(せっさたくま)して伸びていってほしい。(男子400メートル日本記録保持者、92年バルセロナ五輪8位、東海大体育学部教授)

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2017年9月10日のニュース