NFLイーグルスの選手諸君、もうがっかりさせないでね…

[ 2017年9月1日 09:30 ]

活躍が期待されるイーグルスのQBウェンツ(AP)
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 【高柳昌弥のスポーツ・イン・USA】 1969年4月。ビートルズの19枚目のシングルのA面は「Get Back」だった。そしてB面が「Don’t Let Me Down」。故ジョン・レノンが、この年に結婚したオノ・ヨーコさんに「悲しませないでくれ」とひたすら訴え続けるラブソングだった。

 Let〜downで「がっかりさせる」という意味。8月中旬、米ニュージャージー州のポート・リパブリック紙にもこの言葉を含んだ“遺言”が掲載された。掲載を依頼したのはジェフリー・リーゲル氏。同氏はその数日後、がんとの闘病の末に56歳でこの世を去った。事実上の本人出筆による訃報記事。その中でリーゲル氏はこう文面に綴っていた。

 「Pall Bearer(棺をかつぐ人)はフィラデルフィア・イーグルスの選手8人。そうすれば彼らは最後まで私を“Let down”できる」

 リーゲル氏はNFLのイーグルスの熱烈なファンだった。30年以上にわたってシーズン・チケットを購入。しかしその間、イーグルスは一度もスーパーボウルを制して王座を獲得することはなかった。最後に頂点に立ったのはNFLが当時の対抗組織AFLを吸収合併(1966年)する以前の1960年。まだ「NFL選手権」と呼ばれていた王座決定戦で3度目の優勝を飾った時だった。スーパーボウルには1980年と2004年に出場。しかしレイダースとペイトリオッツにそれぞれ敗れ、リーゲル氏が見守った試合では優勝を逃した。

 Let〜downにはもう一つ意味がある。「持っているものを下ろす」という動作を指すものだ。リーゲル氏は「かついだ棺桶を下ろす」と「自分をがっかりさせる」の2つの意味をこの言葉の中に巧みに潜ませたのだった。

 もちろん本物の選手は来なかったが、故人のユーモアを感じ取った8人の友人たちがイーグルスのユニホームを来て葬儀に参列。最後は故人の望み通り、8人がかついだ棺桶は失意とともに?しっかりと上から下に降ろされた。

 AP通信によれば、妻のドナさんは「他のチームを応援すれば?」と何度も呼びかけたそうだ。しかし返ってきた答えは「そんなことは絶対にできない」。イーグルスはここ3シーズン、プレーオフにすら進出していないが、それでも1人の熱烈なファンは自分の信念を曲げなかった。

 レノンがボーカルを務めた「ドント・レット・ミー・ダウン」には「悲しませないで」以外に「It’s a love that lasts forever(この愛は永遠に続くんだ)」という歌詞がある。リーゲル氏もこの歌を口ずさんだのではないだろうか…。

 亡くなる前日となった8月17日。イーグルスはプレシーズンゲーム(オープン戦)のビルズ戦で20―16で勝った。それが病床に伏していたリーゲル氏が観た人生最後の試合。ドナさんは「最後ぐらいは勝ってもらわないとね」と目をうるませた。

 イーグルスは2季目のQBカーソン・ウェンツ(24)を中心にして巻き返しを図っているところ。さあ、もう十分に優勝へのモチベーションがわき起こってきたはず。開幕戦は9月10日のレッドスキンズ戦。では健闘を祈ります。Don’t let him down! (専門委員)

 ◆高柳 昌弥(たかやなぎ・まさや)1958年、佐賀県嬉野町生まれ。上智大卒。ゴルフ、プロ野球、五輪、NFL、NBAなどを担当。スーパーボウルや、マイケル・ジョーダン全盛時のNBAファイナルなどを取材。50歳以上のシニア・バスケの全国大会に6年連続で出場。

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2017年9月1日のニュース