惨敗した日本の女子マラソン それでもあえて希望を見いだせば

[ 2017年8月12日 09:00 ]

 【藤山健二の独立独歩】世界陸上の女子マラソンで、日本勢は入賞ゼロという屈辱的な結果に終わった。3月の名古屋ウィメンズで2時間21分36秒の衝撃的なデビューを飾った安藤友香(スズキ浜松AC)は20キロ過ぎに早々と脱落。粘りに粘った同僚の清田真央(同)も35キロからの急激なペースアップについて行けず、2時間30分36秒で16位に入るのがやっとだった。

 結果だけを見れば3年後の東京五輪へ向けての足がかりどころか逆に後退してしまったような感じだが、個人的にはあまり悲観していない。2人に共通する「忍者走り」は世界レベルのレースでも十分通用していた。安藤が早々と脱落したのは自ら「気持ちの弱さ」と指摘した通りで、初めての世界選手権で気持ちが守りに入ってしまったのが原因だろう。集団から脱落した後も極端にペースが落ちることなくゴールしているので、名古屋の時のように「先のことは考えずに行けるところまで行く」積極的な走りができていればまた違った結果になっていたはずだ。

 清田はついて行くだけで精いっぱいで、集団がばらけた時にさらに粘る体力はもう残っていなかった。有森裕子さんが解説していたように、本来ならここから先は「体を前傾させて腕の力で引っ張る」走りが必要だったが、手をだらっと下げたままの「忍者走り」では前傾姿勢が取れず、疲れた足を腕でカバーすることができなかった。ただ、この点については里内正幸コーチが以前から「最後に足が動かなくなった時は腕で持って行くような走りにも取り組みたい」と話しており、今後のトレーニングで修正は可能だ。2人ともまだ23歳。技術的にも精神的にも進化の余地はたくさんある。

 問題は、他の選手も含めてスピードとタイムを追求する従来のような強化方針でいいのかという点だ。東京五輪はかつてない猛暑の中で行われる。スピードレースになることはまず考えられない。スローペースの中でタイムの上げ下げが頻繁に繰り返されるサバイバルレースになることは確実で、スピードよりもタフさ、それも心身両面のタフさが求められる。これからの3年間を東京五輪一本に絞って取り組むなら、練習方法もレース選びもすべて見直す必要がある。

 省エネ走法の「忍者走り」は耐久レースとなる東京向きだし、いざというときに腕を振って粘る走りも身につければ勝負どころで大きなプラスになる。後は思い切って酷暑のレースに絞った取り組みができるかどうか。高速コースでの勝負は追求せず、3年かけて酷暑に適した体と走法を徹底的に身につける。地の利を生かしてメダルを獲るにはもうそれしか道はないように思えるのだが…。 (編集委員)

 ◆藤山 健二(ふじやま・けんじ)1960年、埼玉県生まれ。早大卒。スポーツ記者歴34年。五輪取材は夏冬合わせて7度、世界陸上やゴルフのマスターズ、全英オープンなど、ほとんどの競技を網羅。ミステリー大好きで、趣味が高じて「富士山の身代金」(95年刊)など自分で執筆も。

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2017年8月12日のニュース