なぜ?夢追う転向アスリート 寺田明日香 子どもに五輪に出ている姿見せたい

[ 2017年7月24日 08:50 ]

7人制ラグビーで東京五輪を目指す寺田
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 24日で2020年東京五輪開幕まで、ちょうど3年となった。日本中のアスリートが夢の舞台を目指す中、トップ選手の肩書を捨て、別の競技でTOKYOを目指すアスリートがいる。彼らはなぜ転向したのか。そして3年後、日の丸を背負うことはできるのか。

 7人制ラグビーの寺田明日香(27)は4年前。失意のどん底にいた。08〜10年に陸上日本選手権の100メートル障害で3連覇。しかし11年3月の右足首捻挫をきっかけに、負の連鎖が続いた。12年ロンドン五輪を逃し、「これでダメなら辞める」と心に決めて臨んだ13年の日本選手権は予選敗退。現役最後のレースが、東京五輪でセブンズの会場となる味の素スタジアムだったのは、偶然か否か。

 「回復する前に走ってしまい、バランスが悪くなり、走り方を見失った感がありました。自分の体としっかり向き合えてなかった」

 引退後すぐ、日本ラグビー協会の岩渕健輔・日本代表GM(現男女7人制日本代表強化委員長)と面会。熱心な誘いを受けた。同じ北海道出身で、陸上から一足早く転向していた桑井亜乃にも、創作料理を囲みながら誘われた。しかし「あの時は心も体もずたぼろだった。“それは本当に無理だよ、うわーん”と大泣きして断った」

 3年前。幸せの絶頂にいた。8月8日に長女・果緒ちゃんを出産。入籍したのは同年3月29日。それでも「できちゃった婚ではない」と明確に否定する。20年東京五輪の開催が決まったのは前年9月。すでに夫・佐藤峻一さんとの結婚を決めており「“子どもと一緒に五輪を見たい”というコンセプトで(笑)」子づくりをしていたからだ。

 1年前。転機が訪れた。桑井の応援でテレビ観戦したリオ五輪。金メダルを目指した日本は10位に沈んだ。「足が速い選手でも外国人に追いつけず“悔しい”と思う自分がいた。ブランクはあったけど、力になれるのでは、と」。ラグビークラブのトレーナーに転身した砲丸投げ元日本記録保持者の山田壮太郎氏にも「やってみろよ。トレーニングは面倒見るから」と後押しされ、気持ちは固まった。「“子どもと見たい”から“母親が出ている姿を見せたい”に変わったんです」

 7カ月前。逸材ぶりを証明した。熊谷で行われたトライアウト。40メートル走のタイム(非公表)は、リオ五輪金のオーストラリアのトップ選手を上回ったという。ちなみに世界最速と名高い同国のエリア・グリーンは、100メートルで11秒20の記録を持つ。「目指すのは触られない、追い付かれない、追い付けるプレーヤーなので」。約3年のブランクがありながら、世界トップレベルのタイムをたたき出した。

 「技術は粗削り。体をあおって跳ぶのでロスも大きかった。完全に100メートル走のスピードでやっていたんだなと思う」と振り返るように、技術よりも絶対的なスピードが陸上時代の支えだった。加えて全速力で高さ84センチのハードル10台を跳ぶことに「高1で試しに跳んだ時、怖さが全くなかった」というメンタルタフネスが、コンタクトスポーツへの転向をスムーズにさせている。

 1年後。目標は一芸ではなく「パワーアップして(実戦に)戻って、実力を認められて代表に入ること」だ。

 そして、3年後。日の丸を背負う。インゴールへ独走する。スタンドが沸く。5歳になった果緒ちゃんが、その姿を目に焼き付ける――。その日まで一つ一つ、目の前のハードルを跳び越えていく。

 《右腓骨手術から現在リハビリ中》寺田は今、リハビリの真っ最中だ。5月21日の試合で右腓骨(ひこつ)を骨折し、手術。1カ月半で松葉づえは取れたが、まだ自重以上の負荷を掛けられない。47キロから58キロまで増やした体重は53キロに落ちた。それでも表情は明るい。「ハードルは自分のレーンだけを見て、十何秒のレースに作戦なんてない。ラグビーはいろいろなことを考えながら動く。学びました」と復帰後に向け、心身を整えている。

 ◆寺田 明日香(てらだ・あすか)1990年(平2)1月14日、北海道生まれの27歳。小4から陸上を始め、恵庭北高で全国高校総体100メートル障害3連覇を達成。3年時の07年には100メートルも制した。卒業後の08年に北海道ハイテクAC入りし、同年から100メートル障害で日本選手権を3連覇を果たす。09年には世界選手権ベルリン大会に出場した。陸上時代の自己ベストは100メートルが11秒71、100メートル障害が13秒05(日本歴代5位)。所属は千葉ペガサス。1メートル67。

 ▽競技・種目を転向した日本のトップ選手 青戸慎司は陸上短距離で88年ソウル、92年バルセロナ五輪に出場後、ボブスレーに転向し、98年長野五輪出場。バレーボールのインドアからビーチに転向し、両種目で五輪出場の選手には女子の高橋有紀子と佐伯美香がいる。また、スピードスケートの橋本聖子、関ナツエ、大菅小百合は並行して自転車に取り組んで、冬と夏の両五輪に出場した。

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