愛犬を“誘拐”されたNFL選手 どうなる今後の警備態勢?

[ 2017年7月21日 10:15 ]

愛犬を誘拐されたカウボーイズのホワイトヘッド(AP)
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 【高柳昌弥のスポーツ・イン・USA】NFLカウボーイズのワイドレシーバー兼リターナー、ラッキー・ホワイトヘッド(25)の愛犬はアメリカ・ピットブル。フットボール用語にひっかけて「ブリッツ」という名をつけた。

 BLITZは「電撃、急襲」という意味で、フットボールでは守備側の最前線にいるラインマン以外の選手が、本来の守備エリアを捨てて攻撃側(主に相手QB)に突進する戦術を指している。しかし、ブリッツは皮肉にも襲った側ではなく襲われた側になってしまった。

 ホワイトヘッドが留守中に自宅から何者かによって連れ去られたもので、なんと1万ドル(約112万円)の身代金を要求されたというから穏やかな話ではない。犯人側からの電話は複数回。「状況が悪くなる前に犬を返してほしい」という飼い主の要望は聞き入れられず、ついに警察に通報する事態となった。

 ホワイトヘッドはブリッツの無事を証明できるなら、ある程度の金額の支払いには合意したとされているが、以後、犯人からは音信不通。ここからのプロセスはよくわからないが“誘拐”から2カ月ほど経過した7月18日、ホワイトヘッドはブリッツが無事に戻ってきたことを明らかした。

 地元紙などは犯人はテキサス州フォートワース在住のラッパーと報道。ただし犬はホワイトヘッドの元恋人が彼のもとに勝手に連れてきたもので、身代金とされる金額はもともとホワイトヘッドに貸していたものと主張するなど、双方の見解はかなり食い違っている。

 しかし今回の一件で、遠征で自宅を留守にすることが多いプロスポーツ選手にとってはペットもまた犯罪被害の対象であることがクローズアップされることになった。

 かつてスーパーボウルを取材した時、あるチームの有名選手がシャワーを浴びているとき、なぜかその周囲に3、4人の私設ボディーガードが待機していたのを見たことがある。彼は理容店経営など個人ビジネスを展開していたが、どうも仕事上の“敵”が多かったらしく、裸で無防備となるシャワー室では警戒感を強めていた。おそらくここが日本と米国のスポーツ界で大きく異なる部分ではないかと思う。犯罪はどこでもいつでも起こるという感覚は米国では日々の生活に欠かせないものなのだ。

 さて問題がもうひとつ。愛犬、愛猫などのペットを仕事場所でもあるスタジアムやアリーナに連れていける競技団体というのはおそらくないはずだ。するとペットがいる選手の自宅を狙えば高額所得者からそこそこの金額をせびることができる…。これだけ各所で報道されると、そんな匂いをかぎつけた“誘拐犯”の予備軍がいないとは言い切れない。戻ってきたブリッツを抱き上げるホワイトヘッドの動画の再生回数はインスタグラムで10万回を超えたが、あながち「ハートマーク(いいね)」を押して喜んでいる場合ではないのかもしれない。 (専門委員)

 ◆高柳 昌弥(たかやなぎ・まさや)1958年、佐賀県嬉野町生まれ。上智大卒。ゴルフ、プロ野球、五輪、NFL、NBAなどを担当。スーパーボウルや、マイケル・ジョーダン全盛時のNBAファイナルなどを取材。50歳以上のシニア・バスケの全国大会に6年連続で出場。

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2017年7月21日のニュース