体重が重ければいいわけじゃないんです 「柔よく剛を制す」大相撲の世界

[ 2017年5月17日 08:30 ]

大相撲夏場所初日、徳勝龍(左)を押し出しで下す石浦
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 【佐藤博之のもう一丁】大相撲夏場所が始まった。両国国技館で開催される年3回の東京場所では、番付発表の翌日の力士会で関取の体重が測定される。今回、幕内力士42人の平均体重は162・2キロで、初場所前の計測時より0・7キロ増えた。過去最高だった昨年秋場所前の164・3キロには及ばないものの、2012年以降はほぼ160キロ台で落ち着いている。私が大相撲を見始めた小学生のころ、横綱だった北の湖は150キロだった。北の湖が新横綱だった1974年秋場所では、幕内36人で北の湖より体重が重いのは168キロの高見山だけだった。その高見山でさえ、現在では平均より少し重いだけの力士に分類されてしまう。

 大型化が進む角界だが、体重の重い力士の方が有利なのか。夏場所初日の幕内の取組で調べてみると、体重の重い力士が勝ったのは13番で、軽い方が勝ったのは8番だった。だが、体重差が10キロ以上あった取組に限定すると、重い力士は7勝6敗と拮抗していた。30キロ以上の取組は6番あったが、幕内最軽量118キロの石浦が180キロの徳勝龍を押し出しで破り、小結・嘉風は39キロ差の横綱・稀勢の里を押し出すなど、逆に軽い力士が5勝1敗だった。体重差が大きくなるほど軽い方の力士の勝率が上がるという“逆転現象”が起きた。2日目の幕内取組では軽い力士が12勝9敗と勝ち越した。

 柔道では体重無差別で日本一を決める全日本選手権が行われている。今年4月の大会では昨夏のリオデジャネイロ五輪男子73キロ級金メダルの大野将平(旭化成)が出場したが、初戦の2回戦で池田賢生(日本中央競馬会)に大外刈りで一本負けした。体重は78キロと95キロで17キロ差。内股、大外刈り、背負い投げと果敢に仕掛けていったが、時間が進むにつれて体力差が出て、9分54秒の激闘の末に散った。

 大相撲では石浦、宇良ら小兵力士の活躍が目立っている。それが相撲人気の一翼を担っていると言っても言い過ぎではないだろう。体重差が開けば開くほど小兵力士は受ける圧力が大きくなるが、柔道と違って体重差をスピードでカバーできることもある。懐に入ってしまえば圧力を軽減することも可能だ。「柔よく剛を制す」という言葉があるが、柔道は無差別級の対戦自体が少ないだけに、その言葉は相撲の方がしっくりくる感じだ。

 体重で言えば、今場所、2度目の大関獲りに挑む関脇・高安は174キロで初場所前の測定より5キロ減となった。大食漢で知られる高安は「米を食べればすぐ太る。(その気になれば)200キロになる自信はある」と言う。だが、初めての大関獲りだった昨年九州場所は体重が重すぎたことも影響して、7勝8敗と負け越した。どの力士にも適性体重はある。高安は170キロ台中盤を維持しながら、大関昇進を目指していく。 (専門委員)

 ◆佐藤 博之(さとう・ひろゆき)1967年、秋田県大曲市(現大仙市)生まれ。千葉大卒。相撲、格闘技、サッカー、ゴルフなどを担当。スポーツの取材・生観戦だけでなく、休日は演劇や音楽などのライブを見に行くことを楽しみにしている。

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