トップアスリートが考える引き際…荒川静香さん、浅田真央さんの場合
フィギュアスケートの浅田真央さんの引退を受けて、会見を開いた荒川静香さんはアスリートの引き際についてこう述べた。「誰もが自分の最後をどこにするかというのは一番難しい問題。思い通りにはなかなかいかないもので。ピークは過ぎてみないとそこがピークかどうか分からないですから。ピークの時はもっと先があるような気がするし、過ぎてみたからこそ分かるピークもある」。
荒川さんは22歳で世界選手権を制した03―04年シーズンが自身のピークだったと振り返る。「私自身(06年)トリノ五輪までやるとは思わなかった。もう何度やめそびれたことを悔やんだことか分からない。04年から06年にかけて“本当はあそこがやめ時だったのでは”と考え続けた」。04―05年シーズンの全日本選手権では足を負傷してフリーを棄権。世界選手権も9位に沈んだ。何度も心は折れかけたが、やめなかった。結果的に24歳で迎えた06年2月のトリノ五輪まで続けたことで金メダルを獲得。そのシーズン限りで引退した。「最後にここまでやって良かったなと思えれば、それがどんな結果であれいいのかなと」。荒川さんは有終の美を飾れたからやめたのではなく、自分自身が「やりきった」と思える時が来たからやめたのだろう。
浅田真央さんは引退会見で自身の引き際について「ソチ五輪のシーズンで自分が選手を終えていたら“今もまだできたんじゃないか”と思っていた。でも、自分が望んでチャレンジした結果なので本当に今は何もやり残したことはない。そういった意味でもう一度自分でチャンレンジすることができて良かったと思います」と言った。五輪後に1年間の休養を挟み、復帰したからこそたどり着いた境地。後ろを向いて最後に涙こそ流したものの、その言葉と表情には「やりきった」というすがすがしさがあふれていた。
競技は違うが、こんな考え方もある。30歳にしてスピードスケート女子500メートルの絶対女王となった小平奈緒は「あまりピークという考え方はない。(アスリートは)20代後半が一番いいとかは先入観でしかないと思うので、私の中での競技人生という部分で生き抜くことができれば素晴らしい。高め続けたいという気持ちはぶれない」と、今もなおスケートを追求している日々。自らの引き際について考えたことすらない。「500メートルの私のレースと一緒で最後の100メートルを駆け抜けるように(来年2月の)平昌五輪も駆け抜けていきたい。だから、その先も何年続けるかとか、そこでやめるのかとかも自分の中でも分からない」。フィギュアスケート男子の羽生結弦、スキージャンプ女子の高梨沙羅らとともに金メダル候補であることは間違いないが、今のところ重圧も感じていない。小平がやめることを決断するのは「やりきった」という時よりも「スケートを追求できなくなった」時なのだろう。
アスリートの引き際に対する考え方はさまざまで、それが正解だったのか不正解だったのかは本人にしか分からない。王貞治は最後のシーズンで30本の本塁打を放ちながら「王貞治としてのバッティングができなくなった」とバットを置き、千代の富士は貴花田に完敗して「体力の限界」を悟り土俵を去った。現役選手にとって最も難しい問題だからこそ、その人物の生き方が鮮明に浮かび上がる。選手の引退を「引き際の美学」なんて格好いい一言で片付けてはいけない。 (記者コラム・鈴木 悟)
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