内村 全日本選手権V10!「勝ってしまったので地獄」王者ゆえの苦悩も

[ 2017年4月10日 05:30 ]

<全日本体操個人総合選手権決勝>表彰式で笑顔を見せる内村航平(左から2人目)と2位の田中佑典(左)、3位の白井健三
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 キングはやはりキングだった。体操の全日本個人総合選手権最終日は9日、東京体育館で男女決勝が世界選手権(10月、モントリオール)の代表2次選考会を兼ねて行われ、男子決勝でプロ初戦となった内村航平(28=リンガーハット)が、86・350点をマーク。2位の田中佑典(27=コナミスポーツ)とわずか0・050点差の接戦を制して前人未到の10連覇を達成し、個人総合の連勝を39に伸ばした。白井健三(20=日体大)が86・100点で3位。女子は村上茉愛(まい、20=日体大)が56・450点で連覇を果たした。

 勝ち続ける者にしか、見えない景色と、口にできない言葉がある。内村にとって、この優勝が意味するものは何か。そんな問いに、キングは苦笑いを浮かべた。「いや、もう、地獄ですよね。勝ってしまったので、期待に応え続けないといけないと思う。勝ってしまったので地獄」。2位・田中との0・050点差は、39連勝中で最も僅差。「負けた方が楽だったんじゃないか」と振り返ったが、王座は動かない。キャリアの集大成となる20年東京五輪へ、プロとして第一歩を刻んだ。

 体操界ではベテランの28歳。7日の予選で大きなミスがあった5種目目の平行棒を前に、体力は限界に達していた。4種目目の跳馬を終えて大胸筋に痛みが走り、平行棒はなんとかクリアしたものの、首位と0・050点差の3位で迎えた最終種目の鉄棒は、「今までで一番悪い。途中で笑いそうになった」というほどの出来。演技には切れを欠いたが、最後は着地をピタリと止めた。一歩でも動いていれば、田中に敗れていた。鉄棒で奇跡の大逆転を起こしたリオ五輪個人総合の再現だった。

 体操をメジャーにするために昨年12月、プロに転向。リオ以来、約8カ月ぶりの実戦で試合勘もなく、負けを覚悟する一方で、負けられない理由があることも分かっていた。「プロになって競技力が落ちたとは思われたくない」。前日(8日)、妻の千穂さん(27)と長女・斗碧(とあ)ちゃん(3)、次女・千翠(ちあ)ちゃん(2)は、千葉・香取神宮にいた。世界最強のパパは、愛する家族の必勝祈願を無駄にしない。決勝前、千穂夫人に「開き直ったよ」とメッセージを送り、試合後は家族に花束を手渡した。

 今大会との得点合計で争う5月のNHK杯で2位以内に入れば、7連覇が懸かる世界選手権の代表に決まる。「NHK杯では自分らしい演技ができるようにしたい」。満足から程遠い内容でも田中を上回り、白井ら若い世代を寄せ付けない。負けなかったからこそ、口にできる言葉もある。「地獄だけど、今はそれくらい追い詰められた方がいいのかな。若手にも、しっかり示していけるような体操選手でありたい」。黄金に彩られた地獄で、キングはこれからも理想の演技を追い求める。

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2017年4月10日のニュース