最強の“カベジョ”野口啓代 東京五輪でさらなる高みに

[ 2017年1月31日 11:30 ]

足の指先だけをかけてぶら下がる野口
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 カトパンことフリーアナウンサーの加藤綾子(31)が2020年東京五輪で活躍が期待されるアスリートに迫る「東京五輪 伝説の胎動」。第4回はスポーツクライミングの野口啓代(27、TEAM au)。これまでボルダリングW杯で4度の優勝を果たしている女王は「1週間登らないとヤバイ。ストレスがたまっちゃう」と笑顔を浮かべるほどの壁好き。五輪初採用となる本番でさらなる高みに上り詰める。

 ――上着を脱いだら凄い(笑い)。華奢(きゃしゃ)かと思ったら全然違う。無駄なものが何もない。肩甲骨とか格好いいですね。

 「登ることでついた筋肉です。あえて筋トレで重いものを持ったりはしない。筋肉が大きくなると指にも負担がかかりますから。体重は軽い方が有利ですね」

 ――ジムの壁にはたくさんの突起物がありますけどボルダリングはどんなルールですか。

 「コンペティション(大会)では1つの壁に5〜6個のホールド(突起物)が付いています。スタートとゴールするホールドが決まってるので、どの順番で持つか、足の配置をどうするか考え、登りきったら課題はクリアになります」

 ――びっくりするくらい小さいホールドもありますけど、これにぶら下がるんですか。

 「数ミリとか指の第1関節くらいの大きさの物もある。鍛えずに急にやったら無理ですけど両手ならぶら下がれますよ」

 ――うわ〜っ楽々ぶら下がってる。壁も傾斜してるじゃないですか…この時点で気持ちが折れそうになる(笑い)。

 「全身の筋肉を使って登ります。やり方は自由。いろんな工夫ができるし奥が深いです」

 ――シューズも小さいですね。

 「足よりも小さいので指先を握る形で履きます。足の指にタコができて夏になるとサンダル姿が恥ずかしい。爪先だけでもぶら下がれますよ」

 ――えっー、そんなウソでしょ。凄いバランス感覚。

 「かかとや爪先も使います。クライミングをしている中で自然と出る動きです」

 ――手も長いし指も長い。いつもぶら下がってるとそうなるんですか。

 「手も大きくなりました。今、指紋がない。ホールドがザラザラしてるので摩擦で減る。赤くなって肉球みたいになってます。2日くらい休めば回復するんですけどね」

 ――本当にない。携帯電話の指紋認証ができないですね(笑い)。 

 ――クライミングとの出合いは小学5年生。

 「家族旅行でグアムを訪れた時のゲームセンターです。木登り感覚で凄く楽しかった」

 ――環境も良かった。

 「家族も応援してくれました。当時、自宅の近所にジムができた。中学生の時には自宅に壁も造ってくれました」

 ――小さい頃から登るのが好きだった。

 「実家は牧場を経営。牛の上に乗って遊んだり、木登りしたり相当おてんばだった。牛舎が3階建ての家くらいで、その屋根で遊んでた。一番てっぺんまで行きたい。高いところからの眺めを見たいんです」

 ――練習はハード?体力はもちろん頭を使うスポーツですか。

 「1日に6時間から8時間は登ります。凄く考えます。力いっぱいパワフルに登る課題もあれば、バランスよくゆっくり登らないといけないものもある。その使い分けが大変」

 ――勝敗で私生活に影響が出たりしますか。

 「クライミングが中心。うまくいかないと恋愛で当たったりします(笑い)。子供の頃、応援してくれている父によく当たり散らした。成績が悪くて1カ月くらい口をきかないことも。本当に申し訳ないなと思ってます」

 ――リラックス法は?

 「登れないとストレスが…1週間登らないとヤバい。ルーティンになりすぎてて練習しないと1日ご飯を抜く感じ」

 ――思わず街でどこかにぶら下がったりすることはないですか。

 「家に突っ張り棒や指先でぶら下がるボードがある。仕事から帰って疲れてたら、気が済むまでぶら下がる。そうすると落ち着きます(笑い)」

 ――日本で一番を決める「ボルダリング・ジャパンカップ」では06年から14年まで9連覇して、16年に10度目の優勝。今年は残念ながら2位でしたけど成績はプレッシャーになりますか。

 「15年の大会は10連覇が懸かっていたんですけど“勝たないといけない”と思いすぎて初めて負けた。昨年、勝てたことは大きな転機になりましたね」

 ――海外でのクライミングトリップがいい気分転換になった?

 「2年前に負けた後、米国に3週間行った。それまでクライミングがノルマみたいになっていたけど、目の前の課題に登るという初心に帰れた。砂漠地帯で夜は寒いし、風も強い。男性と共同生活で登る以前に過酷。人間的にも成長させられましたね(笑い)」

 ――ほかの競技では誰が好きですか。

 「女子フィギュアの浅田真央さん。個人種目なのに他人とも競う。技や体を極めないといけないところもクライミングに似ている」

 ――東京五輪では31歳になります。あと3年ですね。

 「16歳からW杯に出ているので年齢の感覚はないですね。大人よりも子供、男性より女性が強いこともある。ベストな状態で五輪には出たい。競技は3種目総合のボルダリング、リード、スピードで競うことになりそう。しっかり準備して地元で金メダルを獲りたい」

 ――ボルダリング…見るのとやるのは大違い。手足を離すのも怖かったです。

 「筋肉痛、大丈夫ですか?」

 ――たぶん痛みが出るのは明後日くらいですかね(笑い)。 

 ≪ジャパンカップ惜敗も…14歳ふたばと仲良し 自宅で恋愛トークも≫野口は28、29日に第12回ボルダリング・ジャパンカップに出場。11度目の優勝を目指したが、14歳の伊藤ふたばに敗れて2位に終わった。「自分の登りを見直して、W杯では同じことがないように」と今後のW杯での巻き返しに気合十分。史上最年少の14歳9カ月で優勝した伊藤とは公私で仲が良く、野口の家に泊まりに来た際には「彼氏できたの〜?とか女子っぽい話をする」と明かしていた。

 ◆野口 啓代(のぐち・あきよ)1989年(平元)5月30日、茨城県龍ケ崎市出身の27歳。競技を始めて1年となる小学校6年(卒業時)で全日本ユース選手権で優勝。ボルダリング・ジャパンカップでは12大会中、計10度優勝。W杯では08、09年と14、15年と計4度、総合優勝している。1メートル65、49キロ。

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