異常な寒波でスポーツ界も混乱 雪でよみがえるあの日の悪夢

[ 2017年1月16日 08:00 ]

8年ぶりの大雪に見舞われた米オレゴン州ポートランド(AP)
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 【高柳昌弥のスポーツ・イン・USA】ポートランドは米オレゴン州を代表する都市。しかし今、8年ぶりの大雪で各所で混乱が起きている。ここを本拠にしているプロスポーツ・チームと言えばNBAのトレイルブレイザーズ。西海岸なのでめったに積雪はないのだが、今年は例外のようだ。なにせ欧州はほぼ全域で大雪。その影響は確実に北米にも出ている。

 10日。NBAのキャバリアーズはユタ州ソルトレークシティーでジャズ戦を終えたあと、トレイルブレイザーズと対戦するためにポートランドに移動した。しかし到着は冬の嵐に阻まれて大幅に遅れ、空港にたどりついたのは午前3時。選手たちの疲労感は倍増したはずだ。

 相手のトレイルブレイザーズも同じような目に遭っていた。レイカーズ戦のあとホームに戻る予定だったが、ポートランドの空港から着陸は無理との連絡が入り、さらに北上してワシントン州シアトルまで行くはめになった。シアトル市内のホテルを急きょ押さえて選手は仮眠。朝にポートランドにUターンしたが、移動を担当していたチームのスタッフはさぞかし大変だったと思う。

 NFLは現在プレーオフの真っ最中。8日にウィスコンシン州グリーンベイで行われたパッカーズ対ジャイアンツ戦は氷点下11度の中でキックオフとなったが、しばらくチーム関係者は天気予報に戦々恐々となるだろう。

 1989年11月。私はカレッジ・フットボールの取材でミシガン州アナーバーにあるミシガン大を訪れたのだが、ここで苦い経験をしてしまった。試合当日の気温は氷点下18度。雪が舞い風もそこそこあったので体感温度はもっと低かったと思う。九州出身の私にとってはもちろん「人生最低気温」だった。(今もまだこの記録は破られていない)。カメラマンでもあった私はいつもの服装で(暖かくしたつもりだったが…)フィールドに出たのだが、どうも周りの様子が少し違う。現地のカメラマンはみんな目出し帽をかぶり、大切なカメラはアルバイトの少年たちが懐に抱えていた。

 理由はすぐにわかった。当時のカメラはもちろんフィルム式で、ファインダー付近にモニターなどない。だからカメラを構えたとき、どうしても顔が本体に近づいてしまう。しかしもし唇が金属部分に接触するとくっついて息ができなくなる危険性があったのだ。実際、車の鍵穴に息を吹きかけて唇がくっついて死亡する事故がこの頃にはあった。だから口元を隠す目出し帽が必要だった。しかもふぶいていたのでレンズを交換できるような状況ではなく、あらかじめカメラを2台以上用意して異なるレンズを最初から装着している必要があった。アルバイトの仕事は予備機と電池をすぐに使えるように温めておくこと。そんなことを知らなかった私は自分でレンズ交換をしたのだが、日本から持ち込んだ軍手は防寒の機能まで果たしてはくれなかった。

 第3クオーターが終わったところで口が動かなくなった。あまりの寒さで唇が動かない。手の感覚はなくなりカメラを持つことができなくなった。実はここからの記憶があいまいだ。気がつけばスタジアム内の記者席近くのソファに寝かされていた。低体温症で倒れていたのだと思う。異変に気がついた仲間のカメラマンが通報してくれたようで、それでなんとか助かった。その日「ビッグハウス」とも呼ばれるミシガン・スタジアムに集まったのは10万1000人。倒れたのは冬の怖さを知らなかった私1人だった。

 プレーオフの1回戦でパッカーズに負けたジャイアンツのWRロジャー・ルイス(23歳)は試合前に上半身裸でウオーミング・アップをしていた。気合が入っていることをアピールしたかったのだろう。でもお願いだからやめてほしい。だから私のような本当の寒さを知らない人間が「ああ、その程度か」と勘違いしてしまうのだ。

 スポーツ界にも影響を与え始めた大寒波。選手も観客も、そして取材する記者たちも無事に冬を越せることを祈っている。(専門委員)

 ◆高柳 昌弥(たかやなぎ・まさや)1958年、佐賀県嬉野町生まれ。上智大卒。ゴルフ、プロ野球、五輪、NFL、NBAなどを担当。スーパーボウルや、マイケル・ジョーダン全盛時のNBAファイナルなどを取材。50歳以上のシニア・バスケの全国大会に6年連続で出場。

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