GPファイナル汗かき日記3 ユヅル!スペシャルフォト フォー ミー

[ 2016年12月16日 08:00 ]

22歳、V4のポーズを取る羽生選手。視線が柔らかです
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 【長久保豊の撮ってもいい?話】カメラマンの1日は長い。朝はコックエリコ(おフランスのコケコッコー)の合唱の中を歩き、夜は街娼たちの視線を浴びながら帰る。今大会の1日を例に取れば、ジュニアの練習が始まるのが午前7時。競技が終わるのは午後10時30分。この時間になると百鬼夜行するのは万国共通だから、宿泊先が近いもの同士が隊列を組んで帰途につく。

 「写真撮ってもカメラは盗られるな」。各自200万円程度の機材が入ったバックを背負っての集団下校だ。 

 カメラマンたちは古くからの住人、新参者、旅人が入り交じって村のようなものを形成して暮らしている。

 村長はデビッド・カーマイケル。表彰式などの撮影で真ん中に陣取る小柄なおじさんだ。教師生活30年、カメラマンとして第二の人生を送る幸せな人。選手に写真を頼む際には「ユヅル!スペシャルフォト フォー ミー」などと弱った老人を装うが、実は一番元気な75歳。

 住人の一人のNさんは羽生結弦選手の写真集などで著名な方。その一方でまかない料理人としての顔も持つ。今回も包丁、まな板、各種調味料をカバンに詰め込んでのマルセイユ入り。午前練習と競技開始までの少ない時間に地元の食材を仕込み、下ごしらえ、これにフィギュア愛をスパイスに加えて煮込んだ「Nさんカレー」は冷えた体と、日本食に飢えた心に優しい。「写真を撮ってるよりダシを取ってる時間の方が長い」という噂もある。

 Tさんは選手に寄り添うことができるカメラマンだ。勝った選手と同等、あるいはそれ以上に負けた選手に声を掛ける人。ジュニア時代から築いた選手との信頼関係は強く、助けられることも度々だ。だが、撮影位置抽選で2日連続、25番(最下位)を引くなどクジ運が悪いのが玉にきず。彼が選手に言うように「大丈夫。次があるよ」と言ったが、聞いちゃいなかった。

 彼ら定住者と比べると、勝者に群がり、一騒ぎして帰って行くわれわれは旅人のようなもの。撮れる写真も違う。

 「こっち向いて」とか「笑顔で」という言葉が飛び交うメダルを持ってのフォトセッション。旅人はニッコリ写真は撮れるけど、無防備な本当の笑顔は撮れない。笑顔の「質」の違いにがく然とすることも度々だ。

 前回、お話しした羽生選手のリンクサイドのエピソードもN、T両カメラマンがそこにいたからできたこと。悔しいけれど撮らせてもらった感はある(いや、撮らせてもらったんですけど)。

 フィギュア・カメラマン村は居心地がよいので、旅人もついつい長逗留になりがちだ。でもデビット村長のように「スペシャルフォト フォー ミー」と言えるまでにはあと21年ほどかかるかな。(編集委員)

 ◆長久保 豊(ながくぼ・ゆたか)1962年生まれの54歳。年下の優秀なカメラマンを誘因突起にして、おいしいところをいただくチョウチンアンコウ戦術が得意。ずるい?老かいなテクニックと言ってくれ。

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