神童それぞれ

[ 2016年11月30日 09:11 ]

U―19日本代表に選出された久保
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 【我満晴朗のこう見えても新人類】早熟の天才について柄にもなく考えてしまった。「和製メッシ」の異名を持つ久保建英(FC東京)、15歳。11月5日にJ3とはいえJリーグ史上最年少のデビューを果たし、同24日には19歳以下の日本代表遠征メンバーにも「飛び級」で選出。まさに前途洋々だ。でも、なんだかんだ言っても義務教育中の中学3年生。業界内外から浴びる熱い視線の処理に悩んでいることと思う。

 2004年3月、ある中学生スポーツ選手を取材したことがある。同年夏のアテネ五輪出場を目指す代表チーム合宿に招集された逸材だ。翌月から高校生となるのだけど、当時はぎりぎり中3の15歳。ひとしきりインタビューを終え、締めの質問で「夢は五輪代表?」と尋ねたところ即座に「はい!」と明るい答えが返ってきた。いいねえ。これは予定通りの原稿になりそうだとほくそ笑んでいたら、続く言葉に思わずひざカックン。「あの、アテネじゃなくて、4年後の北京ですけど…」。おいおい。

 気を取り直して「自分のどんなプレーを見てほしい?」と向けてみたら「特に見てほしくないです。こんなんでいいのか、っていうプレーしかできないんで」と、脱力コメントで腰が抜けた。周囲の過大な期待を感じながらも自らの立ち位置は十分過ぎるほど理解している…という素直な感覚だったのだろう。

 結局この選手、故障の影響でアテネ五輪代表には選ばれず、目標としていた北京五輪でも声はかからなかった。夢は途絶えたかに見えた。だがその4年後、つまり2012年ロンドン五輪では堂々の銅メダルメンバーになったのだから人生分からない。その後、一時引退したが、今秋から現役復帰を果たした彼女の名は狩野舞子(28)。女子バレーボールのVプレミアリーグ・PFUで今もプレー中だ。

 ちなみに狩野を扱った12年前の例の記事では「他の競技で話題の中3天才選手」として3人の名を挙げている。その面々とは…。

 ☆福原  愛(女子卓球)

 ☆森本 貴幸(男子サッカー)

 ☆菊地絵理香(女子ゴルフ)

 いずれも狩野同様1988年(昭63)生まれ。現スポーツ庁の鈴木大地長官(49)がソウル五輪競泳男子100メートル背泳ぎで金メダルを獲得した年だ。福原は五輪2大会連続メダリスト。森本は2010年W杯日本代表。菊地は国内女子ツアー通算2勝。狩野を含め、現在でも第一線に身を置いているのは素晴らしいことだと思う。

 さて、冒頭の久保選手。置かれている状況は前述の「中3カルテット」(と勝手に名付けた)にどことなく似ている。ということは…いやいや余計なプレッシャーをかけるものではないか。早熟の天才などと1秒たりとも言われたことのない筆者は彼の心境をうかがい知れないが、12年後の晴れやかな姿はなんとなく目に浮かぶ。(専門委員)

 ◆我満 晴朗(がまん・はるお)1962年、東京都生まれ。ジョン・ボンジョビと同い年。64年東京五輪は全く記憶にない。スポニチでは運動部などで夏冬の五輪競技を中心に広く浅く取材し、現在は文化社会部でレジャー面などを担当。たまに将棋の王将戦にも出没し「何の専門ですか?」と尋ねられて答えに窮する。愛車はジオス・コンパクトプロとピナレロ・クアトロ。

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2016年11月30日のニュース