日本のラグビーにリスペクトを…ジョーンズ前HCの遺産

[ 2016年11月26日 09:00 ]

2013年6月15日、ウェールズに勝利し、広瀬と喜ぶ日本代表のエディ・ジョーンズ・ヘッドコーチ
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 【鈴木誠治の我田引用】ラグビーの日本代表が、11月19日のウェールズ代表とのテストマッチで、30-33と大健闘した。ウェールズには2013年に東京・秩父宮ラグビー場で史上初で唯一の勝利を挙げているが、今回は敗れたものの、3年前との比較で、大きな価値が2つある。

 1つは、13年のウェールズ代表は、ブリティッシュ&アイリッシュ・ライオンズ(イングランド、ウェールズ、スコットランド、アイルランドの選抜チーム)に15人が参加して若手主体だったが、今回はほぼベストメンバーだったこと。もう1つは、今回の試合はウェールズの本拠地、カーディフに7万5000人近くの観衆が集まった完全アウェーだったことだ。試合は、30-30で迎えた終了10秒前、DG(ドロップゴール)で勝ち越された惜敗だった。

 そして、個人的にこの試合にはもう1つの価値があったと感じている。15年のW杯で日本代表は3勝を挙げ、世界を驚かせた。その3勝が、快挙ではなく、実力だと証明できたことだ。ヘッドコーチ(HC)がエディー・ジョーンズ氏からジェイミー・ジョセフ氏に代わっても、少なくないメンバーが入れ替わっても、ボールを保持するスタイルから攻撃的なキックの多用に戦術が変わっても、ジャパンの強さは同じだった。

 3年前のウェールズ戦直後に、ジョーンズ前HCを単独インタビューしたことがある。


 日本のラグビーは、歴史を振り返ると成功していない。その理由の1つとして言えるのは、自分たちの道を見つけるより、他人のコピーをしていたからです。


 ジョーンズ氏は「JAPAN WAY」を掲げた。そのために「CAN DO」と言い続けた。


 日本が成功できない理由については、体が小さいとか、プロじゃないとか、農耕民族の精神があるとか、いろんな人たちがそれぞれの言い訳を言う。だから、JAPAN WAYは速く、強く、賢くならなければならないのです。


 敗戦を繰り返す歴史の中で積み上げられた言い訳を打ち消すために、猛練習を課し、「CAN DO」と言い続けた。そして、結果を残した。

 そのジョーンズ氏が、W杯を最後に退任した。日本人の血と日本人の妻を持つオーストラリア人指揮官は、1990年代に日本で指導者としてのキャリアをスタートさせた。以後、オーストラリア代表HCとしてW杯準優勝、南アフリカ代表アドバイザーとしてW杯優勝と、輝かしい実績を残した。日本との深い縁と、「いつか日本代表を率いてみたい」と夢見てきた情熱を併せ持つ名将の代わりは、いないのではないか。カリスマ指導者の退任とともに、日本代表が一気に弱体化するのではないかと思わずには、いられなかった。

 しかし、今回のウェールズ戦は、その懸念を消し去ってくれた。HCが代わり、チームの攻撃スタイルと守備システムが変わっても、世界ランキング6位を相手に、弱者のラグビーではなく、堂々とスタイルでぶつかり合う戦いを見せた。世界と互角に戦える体力と、自信。W杯で得た遺産をしっかり受け継いでいた。

 先のインタビューで、ジョーンズ氏は、こう話していた。


 日本のラグビーを変えて、ジャパンのラグビーを残すこと。自分が日本を去るときに、日本のラグビーをリスペクトする人たちがいるようにしたいのです。


 試合後、ウェールズのハウリー監督代行は、こう話したという。

 「日本の方が上のチームだった。勝利にふさわしいラグビーをした。負けたような気分だ」

 ◆鈴木 誠治(すずき・せいじ)1966年、静岡県浜松市生まれ。ボクシング、ラグビー、サッカー、五輪を担当。新潟支局勤務の経験あり。軟式野球をしていたが、ボクシングおたくとしてスポニチに入社し、現在はバドミントンに熱中。

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