元気なオリンピアンこそが東京五輪最大のレガシーだ

[ 2016年11月24日 09:00 ]

 【藤山健二の独立独歩】先日、埼玉県内のゴルフ場で重量挙げの三宅義信さんにお会いした。64年東京五輪の重量挙げフェザー級で金メダルを獲得。同五輪の日本人金メダル1号として文字通り国民を熱狂させたレジェンド中のレジェンドである。あれから半世紀が過ぎ、今では76歳になった三宅さんだが、青空の下で元気にプレーしている姿はとても「後期高齢者」とは思えない。ホールアウト後に話を伺うと、さらに驚かされた。「実は春先に二頭筋を痛めちゃってね。ひどい目にあったよ」。そう言うといきなり左腕の袖をまくり上げて上腕部を見せてくれた。確かに傷痕が残っていて痛々しい。だが、驚いたのは傷痕ではなく、隆々と盛り上がった筋肉だった。とても76歳とは思えない巨大な力こぶに度肝を抜かれ、いまだに衰えない気迫に圧倒された。

 三宅さんは再び東京で開催されることになった東京五輪を盛り上げようと2年前に現役復帰。国内外のマスターズ大会などで活躍し、昨年9月のマスターズ世界選手権では見事銀メダルを獲得している。今でも週に2回の練習は欠かさず、左腕を痛めたのも記録会に出場した時だったというから、どう考えても普通の76歳ではない。

 そんな三宅さんをはじめ、東京五輪に出場した選手たちのその後の体力変化を追った貴重なデータが近いうちに公表されることになったという。日本体育協会と国立スポーツ科学センターが68年から4年に1度の五輪イヤーに当時の選手たちを対象とした体力測定を実施してきたもので、リオデジャネイロ五輪があった今年も三宅さんや女子バレーボールで金メダルを獲得した東洋の魔女らが元気に参加した。

 もともとこの調査は、スポーツが健康に及ぼす悪影響を調べるのが目的だった。半世紀前の当時は「若い頃に激しい運動をしすぎると年を取ってから障がいが出て寿命が短くなるのではないか」と信じられていたからだ。だが、三宅さんの力こぶを見ているとそれがまったくの誤解だったことがよくわかる。実際、データ的にも高血圧など生活習慣病の発生率が一般よりもかなり低いことが証明されているという。スポーツをすることで健康寿命が延び、年を取っても楽しい人生を送ることができる。三宅さんら元気なオリンピアンの存在自体が、まさに前回の東京五輪の最大のレガシーと言っていいのかもしれない。(編集委員)

 ◆藤山 健二(ふじやま・けんじ)1960年、埼玉県生まれ。早大卒。スポーツ記者歴34年。五輪取材は夏冬合わせて7度、世界陸上やゴルフのマスターズ、全英オープンなど、ほとんどの競技を網羅。ミステリー大好きで、趣味が高じて「富士山の身代金」(95年刊)など自分で執筆も。

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