ピンクの魔力!全米大学フットボール、アイオワ大のスーパーパワー

[ 2016年11月18日 09:30 ]

ミシガン大を下し、歓喜のアイオワ大(AP)

 【高柳昌弥のスポーツ・イン・USA】全米大学フットボールの1部校、アイオワ大の本拠地キニック・スタジアム(アイオワ州アイオワシティー)は7万585人を収容できる。1929年にアイオワ・スタジアムとして誕生。現在では全米で7番目に大きな競技場となった。

 さてこのスタジアムにはある秘密が隠されている。なんと敵チームが使うロッカールームの方だけ、壁がすべてピンク色なのだ。これはかつてジャパンボウル(全米大学オールスター戦)でも指揮を執ったヘイデン・フライ監督が1979年に大学側に指示したアイオワ式のアウェーの洗礼。ピンクが人間に及ぼすマイナスの心理(繊細、もろさ、不安感)を逆手にとって、敵チームを試合開始直前に動揺させようとしたのだ。キニック・スタジアムは2005年に大規模な改修工事を行ったが「ピンクの壁」はそのまま。以来、相手チームはここに来るたびに不安な気持ちを抱いたままフィールドに出た…(のかどうかはわからない)。

 さて11月12日。アイオワ大と対戦するミシガン大の面々がここにやって来た。今季のミシガン大はアイオワ大戦を迎えるまで9戦全勝。AP通信のランキングでは全米2位となっていた。全米王座決定戦のプレーオフに進出できる可能性も十分。そこで用具担当のスタッフたちは一計を案じ、搬送した機材の中に山ほどのミシガン大のポスターや旗を詰め込んだ。そしてアイオワ大が仕込んだピンクの壁という壁に貼っていき、大事な一戦の前に可能な限りの不安要素を取り除こうとしたのである。ミシガン大のチームカラーはMaize(メイズ=とうもろこしの実の薄い黄色)とBlue(実際は紺色)。ロッカールームで目立ったのはピンクではなく「GO BLUE!」と書かれた黄色と紺色が主体の数百枚に及ぶポスター類だった。

 では試合はどうなったか?実はミシガン大のスタッフの努力は残念ながら徒労に終わる。なんとここまで5勝4敗といまひとつの成績だったアイオワ大に13―14の1点差で敗れて今季初黒星。全米王座の獲得は厳しい状況に追い込まれてしまった。試合が終わるとアイオワ大の地元ファンはフィールドになだれこんで歓喜。全勝チームの細かい努力までかき消してしまうピンクの魔力があらためて注目される一戦となった。

 スポーツと色彩の関係は密接だ。精神的にリラックスできるというプラス面を持ち合わせている「青」はすでに多くの陸上競技場のサーフィス(表面)に採用されているし、アメリカン・フットボール界ではボイジ州立大(アイダホ州)の本拠地アルバートソンズ・スタジアムの表面が緑ではなく青になった。ただしこれでは味方も敵も条件は一緒。アイオワ大の“桃色戦術”とは少し性質を異にしている。

 「そこまでやる必要はない」。ごもっとも。米国でもそういう声は依然として渦巻いている。しかし日本人はそこまで「ホーム・アドバンテージ」という言葉を突き詰めて考えたことがあるだろうか?すでに37年前にアイオワでそんなことを考えていた監督がいたこと自体が私には驚きだ。

 さてこれから新しいスタジアムを建設される皆さん、少しだけ頭の中をピンクに染めてはいただけないか…。もしかしたら、それがやがて大金星につながるかもしれませんよ!(専門委員)

 ◆高柳 昌弥(たかやなぎ・まさや)1958年、佐賀県嬉野町生まれ。上智大卒。ゴルフ、プロ野球、五輪、NFL、NBAなどを担当。スーパーボウルや、マイケル・ジョーダン全盛時のNBAファイナルなどを取材。50歳以上のシニア・バスケの全国大会に6年連続で出場。

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