天文学的な数字が隠れていたワールドシリーズ なかなか巡りあえない確率とは…

[ 2016年11月6日 09:45 ]

ワールドシリーズ第7戦を観戦していたキャバリアーズの選手たち

 【高柳昌弥のスポーツ・イン・USA】大リーグのワールドシリーズはカブスの108年ぶりの優勝で幕を閉じた。勝負が決した場所はオハイオ州クリーブランド。覇権を争ったインディアンスの本拠地「プログレッシブ・フィールド」だった。

 最終第7戦は、同じクリーブランドを本拠にしているNBAキャバリアーズのレブロン・ジェームズ(31)を含む選手たちも観戦。試合終了は3日午前0時47分だった。キャバリアーズは同日午後8時からホームのセルティクス戦があったので本当は夜更かしなどもってのほかだったはずだが、主力ガードのカイリー・アービング(24)は「こんな試合にはなかなか巡りあえないから、ぜひ見ておきたい」と前日から第7戦を心待ちにしていた。

 アービングの言葉を少し数字で補足したい。そもそもキャバリアーズの本拠地「クイックンローンズ・アリーナ」は「プログレッシブ・フィールド」の左翼後方にある。だからワールドシリーズとキャバリアーズのレギュラーシーズンの試合が重なった10月25日(第1戦)と11月1日(第6戦)には、その間にある広場に両チームのファンが混在するという珍しい風景が広がっていた。

 2つの競技施設間の距離は100メートル弱。実は大リーグとNBAの両競技場が徒歩圏内(1キロ未満)に隣接している都市は北米に8つだけで、しかも両者の日程がクロスしてNBAのファンと大リーグのファンをカメラの同じフレームに捕らえられるのはレアケースなのだ。

 さてアービングが言うところの「なかなか巡りあえない」をさらに違った角度で考えてみる。

 キャバリアーズは今年6月のNBAファイナルでリーグ加盟から57シーズン目で悲願の初優勝。インディアンスは1948年から頂点から遠ざかっていた。過去115年で優勝したのは2回だけ。つまり優勝確率57分の1のチームに所属しているアービングが、115分の2の確率しかないチームの優勝を同じ年に自分の目に焼き付ける可能性の確率は0・03%だった。インディアンスが優勝していれば1万年に3回しか起きないことが、8つしかない大リーグとNBAの隣接エリアで実現しようとしていたのである。

 この異競技における「お隣同士のダブルV」を論じ合えるのはクリーブランドの他に、オークランド、フィラデルフィア、トロント、ミネアポリス、フェニックス、ヒューストン、デンバーだけ。ただし、どの都市でもまだ大リーグとNBAの王者が同一年に誕生したことはない。もちろんこの中から、遠い未来のどこかで地元市民にとっては幸せすぎる出来事が起こるのだろうが、それがいつなのかは誰もわからない。

 さて、その時に同じネタでコラムを書く記者の方に言っておきたい。2016年11月2日。1万年に3回しか起きない偉業に挑んでいたインディアンスの相手は100年以上も優勝していなかったカブスだ。そもそもそんなに長期にわたって優勝しないチームをまず生み出さないと、この話は前に進まない。アービングが「なかなか巡りあえない」と語っていた今年のワールドシリーズ。隣接チームの存在率×2つのチームの優勝確率×1世紀以上優勝していないチームと対戦する確率…。それを総合的に考えてみると、球場であれ、テレビであれ、試合を見ていた人は全員が「最も奇跡的な瞬間の目撃者」になる寸前だった。なお「その確率は?」という質問への解答は未来の担当記者にお任せしておこう。私には「なかなかはじき出せない」数字なのだ。(専門委員)

 ◆高柳 昌弥(たかやなぎ・まさや)1958年、佐賀県嬉野町生まれ。上智大卒。ゴルフ、プロ野球、五輪、NFL、NBAなどを担当。スーパーボウルや、マイケル・ジョーダン全盛時のNBAファイナルなどを取材。50歳以上のシニア・バスケの全国大会に6年連続で出場。

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