こんな時ですが、五輪はひと休みしませんか? IOCの皆さん…

[ 2016年10月14日 10:20 ]

アラバマ州で発生した山火事(AP)
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 【高柳昌弥のスポーツ・イン・USA】米国の西海岸の水源はそのほとんどがロッキー山脈などの山岳部に積もった雪。それが春になって溶けて川に流れてダムにたどりつく。しかし地球温暖化の影響で積雪量がめっきり少なくなった。夏になると渇水。西海岸の各都市では芝生に水をまくスプリンクラーの使用が禁止されることもあった。気温が高くなり落雷も増えたためにロサンゼルス近郊でも山火事が多発。大リーグ・ドジャースの本拠地「ドジャースタジアム」からも煙が見えるほどだった。

 さてこのロサンゼルスは2024年の夏季五輪招致に立候補している3都市の1つ。1984年に初めて商業主義五輪を成功させてから40年。通算3回目の開催を目指している。ほとんどの競技施設がすでにあるので新たに造る必要がない。そこは大きなメリットだ。

 ただし「水」と「火」の問題が残る。84年の五輪開催時期は7月28日から8月12日まで。もし、24年の同じ時期に五輪を開催するなら、「祈る」という方法以外に、地球温暖化を鎮める新たなシステムを開発する必要に迫られるかもしれない。(完成すればノーベル賞ものだが…)。そうでなければ市民の生活の一部が、水を含めて大量消費を避けられない五輪によって妨げられるという招からざる未来図が現実味を帯びてくる。

 24年の五輪招致レースで残っているのはロサンゼルスとパリ(フランス)、ブダペスト(ハンガリー)の3都市。ローマ(イタリア)は市長が代わった段階で緊縮財政を理由に撤退してしまった。08年北京、12年ロンドンの夏季五輪、そして14年のソチ冬季五輪…。五輪開催に必要な経費はいつしか日本では「兆」という単位になっている。ローマはすでに招致費用として1300万ユーロ(約15億円)を使っていたが、このまま招致活動を続け、さらに選ばれたあとにふりかかってくる確実で高額な債務を考えると「損切り」こそが最良の選択肢と映ったようだ。テロの多発で現状での五輪開催には数千億円もの警備対策費も不可欠。世界情勢の変化も五輪の運営をより難しくしている。

 すでにテロの被害と直面しているパリに五輪は必要だろうか?確かに前回開催(1924年)から100年後という節目の年でもあるが、今から8年後に欧州連合(EU)がどうなっているのかも読めない。英国のEU離脱、いわゆる「ブレグジット(BREXIT)」が経済面でどう影響するのかを見極めない限り「兆」という単位を論じるのは時期尚早だろう。

 それはブダペストも同じ。人口174万人の都市に今の肥大化した五輪はあまりにも負担が大きい。「中央ヨーロッパに初の五輪を!」という意気込みは伝わってくるが、レガシーという言葉がつきまとう競技場建設、利権に関与しない有能で適切なリーダー選び、そして湯水のように使われる税金に対する納税者の理解を確保する難しさは東京がすでに十分すぎるほど示していると思う。

 加えてハンガリーは、あふれる難民に門戸を閉ざしたまま。EUの方針には従わず、この問題に関しては否定的な立場を取っている。一方でリオデジャネイロ五輪には「難民選手団」として10人の選手が出場。さてもしブダペスト五輪になった場合、組織委員会は彼らをどうするのだろうか?

 候補都市を責めているのではない。大志、理想、夢、希望…。そういったポジティブな心の産物が、今は不況、憎悪、悪夢、殺意といったネガティブなものにつぶされている時代。だからこそ復旧のための時間が必要なのだ。

 2024年夏季五輪の開催地決定は来年9月。その前に大切なお金の使い道と、その国の人々のプライオリティーをもう一度、考え直してほしい。そうでなければ開催地決定は決して“朗報”にはならない。

 さてハリケーン「マシュー」の動きを追っていた私の目に意外な光景が飛び込んできた。フロリダなど東海岸沿岸の各州は大きな被害に見舞われたが、そのフロリダ州に接しているアラバマ州はなんと渇水状態。山火事も発生しており、カリフォルニア州と状況が酷似してきた。南部でさえこのありさま。おそらく、どちらが大統領になってもこの問題はすぐには解決しない。

 「地球を元に戻すこと」。五輪をスムーズに開催するための第一歩はここに突き当たる。自然と経済と平和。「五輪こそ人生の目標」と考えている選手の皆さんには申し訳ないが、それがきちんと整うまで夏季も冬季も五輪を少し待ってみてはどうだろう。そろそろ“タイムアウト”をコールする時期。土が露出しているアラバマ州バーミンガムのパーディー湖の写真を見てそう思った。(専門委員)

 ◆高柳 昌弥(たかやなぎ・まさや)1958年、佐賀県嬉野町生まれ。上智大卒。ゴルフ、プロ野球、五輪、NFL、NBAなどを担当。スーパーボウルや、マイケル・ジョーダン全盛時のNBAファイナルなどを取材。50歳以上のシニア・バスケの全国大会に6年連続で出場。

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