新たなタレント発掘へ 「鈴木プラン」の期待と課題

[ 2016年10月9日 09:00 ]

鈴木スポーツ庁長官
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 【藤山健二の独立独歩】スポーツ庁の鈴木大地長官が20年東京五輪・パラリンピックとその後を見据えた新たな強化支援方針、通称「鈴木プラン」を発表した。中長期の強化戦略を策定し、メダル有望種目に強化費を重点配分することなどさまざまな方針が示されたが、一番の注目はジュニア世代に他競技への転向を促す「タレント発掘」事業だろう。

 鈴木長官は高校野球を例に挙げ「たとえば高校球児約17万人のうち実際に出場できる選手は5万人程度で、残る10万人以上は試合に出場しないまま引退している。実は、ここにまだまだタレントの宝が眠っているのではないか」と説明した。日本で一番人気がある野球には運動能力に秀でた選手が集まる可能性がもっとも高い。走攻守の3拍子が揃わずレギュラーにはなれなくても、走力や遠投だけなら負けないという選手もたくさんいるだろう。そういう選手たちに他の競技で本来の力を発揮してもらおうというわけだ。もちろん、これは野球に限った話ではない。あらゆる競技でタレントの発掘を行い、最終的には日本スポーツ界全体の底上げにつなげることが目標だ。

 他競技への転向自体は過去にも話題になったことがある。96年には陸上男子やり投げの金メダリスト、ヤン・ゼレズニー(チェコ)がMLBアトランタ・ブレーブスのトライアウトを受け、遠投で135メートル以上投げてメジャー関係者の度肝を抜いた。欧州出身のゼレズニーは野球の知識がまったくなかったので結局選手として採用されることはなかったが、それに刺激を受けて日本国内でも他競技への転向論議が盛んになった。といっても組織的に行われたわけではなく、大相撲の貴乃花に陸上の砲丸投げをやらせたら金メダルを獲れるのではないかとか、プロ野球の二軍にいる俊足の選手に本格的にトレーニングを施せば100メートルで9秒台が出せるのではないかと、一部の関係者が勝手に構想を抱いただけで、実現には至らなかった。すでに活躍しているプロの選手を他の競技に引き抜くことは難しいが、ジュニア世代のうちに転向を促すことは十分可能だろう。

 俊足強肩の野球選手は陸上の短距離や投てきにも向いているし、逆に陸上の跳躍選手はたとえばバレーボールなどでも力を発揮できるかもしれない。転向の組み合わせはいくらでも考えられる。問題は、素質を見抜く「スカウト」をどう養成するかだ。「鈴木プラン」では他競技への転向を促すトライアウトを全国で随時実施していくとしているが、有能な「スカウト」なしでは絵に描いた餅になってしまう。各競技団体の強化担当者はもちろん、医科学面など幅広い分野の専門家が参画し、何より選手自身のためにより良い結果を導き出してくれることを期待したい。(編集委員)

 ◆藤山 健二(ふじやま・けんじ)1960年、埼玉県生まれ。早大卒。スポーツ記者歴34年。五輪取材は夏冬合わせて7度、世界陸上やゴルフのマスターズ、全英オープンなど、ほとんどの競技を網羅。ミステリー大好きで、趣味が高じて「富士山の身代金」(95年刊)など自分で執筆も。

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