好調の豪栄道、高安が示す 本場所の結果を左右する巡業の過ごし方

[ 2016年9月21日 12:10 ]

10日目、全勝を守り、懸賞を受け取る豪栄道

 11日に両国国技館で初日を迎えた大相撲の秋場所が勝負の終盤戦を迎える。優勝37度を誇る横綱・白鵬が10年ぶりに全休する中で優勝争いはやや荒れ模様。大関・豪栄道が全勝でトップを走るかつてない展開で、それを横綱・日馬富士と平幕の遠藤が1敗で追う。続く2敗の稀勢の里、高安、琴勇輝までがV圏内と言えるだろう。

 個人的には「夏巡業の期間をいかに過ごしたか」が今場所のキーワードの一つだと考えている。名古屋場所千秋楽1週間後の7月31日から北信越、関東、東北、北海道など計21カ所で23日間の巡業を行い、番付発表前日の8月28日に締めくくられた。昨年よりも1週間分長く、スケジュールはまさに“超ハード”。移動のほとんどはバスで、午後3時に打ち出してから5~6時間の移動はざらで「せっかく札幌に来たのに疲れて飲みに行く気力がない…」と嘆く力士もいるほどだった。

 地方のファンに相撲を親しんでもらうことができる巡業は協会にとって本場所と同じくらい重要な意味を持つ。その一方で、本場所の結果で自らの待遇が変わる関取衆にとっては超過密日程の巡業が負担となっていることは間違いない。今回の夏巡業は最初の段階で鶴竜、稀勢の里、琴奨菊、照ノ富士の上位勢も含む18人が休場した。白鵬は先場所痛めた右足親指が完治しないまま強行参加した影響で患部が悪化。さらに別の箇所も痛めてしまい、10年ぶりの本場所全休に追い込まれた。休場を公表した際の取材では「地方巡業は本場所に次ぐ大きなもの。20人ぐらいが休場していて休めないなという思いだった。横綱としての責任だった」と複雑な心境を明かした。

 右足を痛め、巡業前半の10日間を休んだ稀勢の里は「万全というか、良い状態にしたかった。今回は体のことを最優先して考えた。巡業前半のファンには申し訳なかった」と苦渋の決断だったことを説明。腰椎椎間板症で最後の4日間だけの参加となった鶴竜は「18人も休むと聞いて後ろめたさ、仕事ができないつらさがあった。仕事をしてきつい思いをするより、何もできない状態の方がよっぽどきついと感じた」と休場者の思いを代弁した。

 一方、左膝や右足首の不安を抱えながらフル参戦した遠藤は「賭け、でした」と帯同するトレーナーにケアしたもらいながら稽古する道を選択し、それが吉と出ている。豪栄道は横綱大関陣で唯一ケガを抱えていなかったため連日のように朝稽古で相撲を取った。その効果は「15日間が終わってから」と胸の内にとどめているが、少なくとも超過密日程の疲労が本場所に出ている様子はない。今場所1横綱2大関を倒し、大関獲りも見えている高安も「巡業で番数をやって少しでも体力をつけようと取り組んでいた。そういうのが結果につながっている」と胸を張った。

 貴乃花巡業部長(元横綱)は「巡業は普段稽古ができない関取衆と胸を合わせることができる最高の機会」と話す一方で、ハードな日程を考慮して稽古に関しては関取衆の自主性を重んじている。関取衆にはそれぞれの事情や状況があり、それは本人たちにしか分からない。1つ言えることは、巡業で稽古を積んで本場所で結果を残した力士の言葉には説得力が生まれる。今場所で言えば、豪栄道や高安だ。賜杯の行方はまだ分からない。だが、巡業が長くなればなるほど、その期間の過ごし方が本場所の結果を左右するような気がしてならない。(鈴木 悟)

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2016年9月21日のニュース